小説『【完結】Cherry Blossom』
作者:bard(Minstrelsy)

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適当に幾つかゲームをやって、ぐるっと一周して、また彼女の買い物に付き合う。そうすれば、適当に腹が減る。頃合いを見て適当に夕飯にして、適当に帰る。俺はそのつもりで居た。
「あ、お前も来てたの?」
そのつもりは、この一言で潰れた。
目の前には、いつもの連中。
「それはこっちの台詞だ。お前らも来てたのか」
これでは学校にいるのと変わらない。むしろ、彼女が側に居るだけに尚悪い。絶対何か言うに違いない。
「あー、あぁ、幼馴染みの例の彼女と一緒だったのか」
「まぁ」
何故か、連中が大人しい。それに、ぎこちない。
妙な勘違いでもしているのかと釘を刺そうとする。
「なんだー、やっぱり遊びに来てたんだー」
別方向からも声がする。彼女に一瞬戸惑いの色が浮かぶ。が、すぐにいつもの様子に戻った。
「まーね。せっかくの休みだし」
どうやら質の悪いことに、双方の友達グループと鉢合わせてしまったらしい。
いつもの連中だけならまだしも、彼女の方は面識が無い。
どうあしらえば良いのだろうか。やりすぎると妙なことになりかねない。
頼むから俺に関わらないでくれと本気で思う。
が、その願いは脆くも崩れ去った。
「あ、そっちがあの幼馴染み君?」
「こんな人だったのかー」
「クラス近いのに知らなかったなぁ」
「どうもー、この子の友達やってまーす」
やけに高いテンションで俺に絡んでくる。いつもの連中以上に厄介だ。
このまま放っておけばどうなるか解ったものじゃない。
「よし、お前そっちのグループで遊んで来いよ。俺はいつもの奴らと遊ぶからさ」
俺はそう言って彼女の背を押す。
「え、でも……」
「皆帰るとかそんなことになったら連絡してくれば良いだろ。それに、慣れてる方がやりやすいだろ」
「そういう問題じゃ……」
彼女は困ったような顔で俺を見る。
何か言いたいことがあるけれど、どう言えば良いのか迷っている。そんな表情だ。
俺はそんな彼女を無視して、彼女の背を更に押す。
「という訳で、俺らは俺らで遊ぶから。こいつのこと任せるわ」
彼女を友人達の輪に押し込むと、俺は彼女に背を向けた。全員の戸惑う気配が嫌でも伝わってくる。
それを振り払うように、行こうぜ、と俺は連中をゲーセンの奥へ引っ張っていった。


「お前、良かったのか?」
「何が」
「何がって、一緒に遊びに来てたんだろ?」
「別に」
俺は連中をゲーセンへと引っ張っていったのだが、昼飯がまだだと外へ連れ出された。
行き先は、よりにもよって彼女と食事をした店だった。流石に昼時とあって、かなりの人が居る。
無理矢理向こうのグループと合流するつもりかと勘ぐったが、どうやらそうではないらしい。
彼女達の姿は見えない。別の店で食事をしているか、買い物をしているか、そのどちらかだろう。
広いショッピングモールだ。連絡を取らない限り顔を合わせることは無いだろう。それが少し、俺を落ち着かせている。
「別にってことはねーだろ。お前、何にも解ってないな」
いつもの連中と一緒なのは良いが、それはそれで面倒なことになっている。
よりにもよって質問攻めかよ、と些かうんざりする。
「解ってねーのはお前らだって。何でそう変な方へ解釈したがる訳?」
声に棘があったのか、連中は気まずそうに顔を見合わせる。
苛立っているのかもしれない。変な方へ解釈したがる連中に対してか、それともまた別の理由か。
沈黙が重くのしかかってくる。
「お前がそこまで言うなら良いけどよ」
何かを察したのか、一人がそう言う。それで話は一応終わりとなったらしい。さっきまでの雰囲気を振り払うかのように、ゲーセンの話題に切り替わった。
俺は飲み干したカップを投げ捨てるようにトレーに置く。
昼食時、彼女からも質問攻めだったことを思い出す。
それから、何となく俺は落ち着かない。しばらくこの店には来たくないな、と思いながら連中の話を聞き流していた。
「ま、まぁ、腹ごしらえも済んだことだし、ゲーセン行って気張らしでもしようぜ」
「俺久々に格ゲーやりたい。勝負しねーか?」
「おぉ、良いねぇ。俺、今年入ってからまだ負けてねーんだ」
「うし、そろそろ行くか」
トレーを片付け、店を後にする。
ゲーセンに着くなり、勝負だと意気込んで筐体に座る二人。
俺は別の奴にレースゲームの勝負を挑まれ、そいつらと別れる。
硬貨を居入れると、割れんばかりの轟音が周りの音を掻き消した。隣の奴が何かを言ったらしいが、それも聞こえない。
程なくして、カウントダウンが始まった。グリーンシグナル。俺は思いきりアクセルを踏み込む。
マシンがタイヤを鳴らして走り抜ける。相手のマシンは見えない。
彼女は、今頃向こうのグループと楽しく遊んでいるのだろうか。
少しの居心地の悪さと、落ち着かない気持ちを晴らすようにゲームにのめり込んでいった。

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