小説『【完結】Cherry Blossom』
作者:bard(Minstrelsy)

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ショッピングモールの広さを実感したのは、今日が初めてだったかもしれない。
ここは専門店街と量販店が併設されていて、そこにゲーセンや映画館、レストラン街もあるかなり大規模なモールだ。一日遊び回るのは簡単なことだ。だからこそ、彼女もここに俺を誘ったのだろう。
見たいとこ色々ある、と引っ張られ続ける俺。入った店は五軒だけ数えて諦めた。
次々と見て回る彼女。全部見なければ気が済まないのか、と思う。今も女の子向けの店で鞄やら服を見て回っている。
「ね、ね、コレなんかどう?」
必ずと言っていい程に、彼女は俺に意見を求める。
「良いんじゃねーの?」
そんな彼女に、俺は適当に返す。
「彼女さん、結構お似合いだと思いますよ」
にこやかな店員さん。
「いえ、ただの友達です」
そうきっぱりと返す俺。
一体何回繰り返したやり取りだろう。
羽根を伸ばしに来たはずが、何だか余計に疲れが溜まっていく気がしてならない。
年頃の男と女が二人連れで歩いていれば、大抵はカップルだと思われても仕方がないだろう。
とは言え、行くところ行くところ全部でそのやり取りが続けば、本物のカップルでもうんざりするんじゃないかと思う。
ましてや、カップルでも何でもない俺達ならば尚更だ。否定するのも億劫になってくる。
正直、そろそろ帰りたくなってきた。
「一休みしよっか。そろそろお昼だし」
俺は余程疲れた顔でもしていたんだろう。いつもなら俺のことをさほど気に掛けない彼女が、珍しく俺を労るようなことを言ってきた。
「そうだな。そうしてもらえると嬉しい」
時計を見ると、お昼には少し早めの時間だった。少し早起きの俺にとっては良い頃合いだ。
いつもならここでからかうくらいのことはするのだが、その気力すら尽きてきた。
(で、この調子で夕飯までここにいるってか?)
朝の彼女の言葉を思い出す。昼前でこの調子だ。
夕食時まで俺の気力と体力は残っているだろうか。


お昼はこれくらいが良いよね、と入った先はハンバーガーショップだった。
別に、異存はない。少し時間がずれているせいか、人はまだ少ない。
「なーによー、もうへばっちゃってる訳?」
ポテトをつまみながら、彼女はちょっと呆れた風に聞いてくる。
「へばるっつーか気疲れするっつーか……何? お前いつも買い物ってこんな感じ?」
「うん」
「女子って大概そんな感じ?」
「だと思うよ」
「……そうかい」
少し遅れて運ばれてきたハンバーガーを頬張る。
頼んだのはいつものメニューなのだが、腹が減って疲れていればいつも以上に美味しく感じる。
「で、そっちはいつも何して遊んでるの?」
「俺?」
「うん」
「…別に、ゲーセン行ったりカラオケ行ったり、そんな感じだけど」
「他の女子とかとも?」
「あー、まぁ、そうだな。大抵いつも面子と一緒だから大人数だし」
「そっか」
彼女はどことなく複雑な表情をしている。最初に入った雑貨屋の時と同じだ。
納得しきれていない、何か言いたげな、そんな顔。
余り見せないその表情に、俺は目を逸らしてしまう。
何故だろう、彼女を見ることが出来ない。
感じたことのない気まずさ。どうしたら良いのか解らない。
「……それで? これ喰ったら何処行くんだ?」
だから俺は、こういう言い方で誤魔化す。いつもと変わらない風を装って、ぞんざいな口調で。
「んー……考えてなかったな」
困ったような彼女の笑顔も、今はまともに見られない。
「じゃあ、次はそっちに合わせるよ」
「……へ?」
「ゲーセン行こう! そこで遊んでから、次行くとこ決めれば良いからさ」
これでも結構得意なのはあるんだと付け足し、少しばかり胸を張っている。どうやら、俺に勝つ気で居るらしい。
「そうだな。それじゃ次は俺に付き合って貰う番って事で」
容赦はしないぞ、と一応言っておく。だが、彼女は平気だと笑っている。
何がそんなに楽しいのか、いつになく上機嫌だ。
そんな彼女を、俺はいつもと同じ様に見られない。

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