小説『【完結】Cherry Blossom』
作者:bard(Minstrelsy)

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翌日、俺はもう一つの事実を知ることになった。
昨日俺と一緒に居た連中と、彼女の友人達が実はグルだったということだ。
グル、というのは適切じゃないかもしれない。というのも、俺が別行動を言い出した後に手を組んだらしい。
主犯は、昨日俺に手荒い説教をしてくれた奴だ。俺を呼び出した時に連絡を取っていた相手が、向こうのグループの子だったらしい。
「じゃぁ、帰る時間だとかそういうのも……」
「打ち合わせ済みだったって訳」
ついでにその後、合流してカラオケに行ったらしい。それはそれで楽しそうで、少しだけ羨ましかった。
よくよく考えれば、丁度良く両者が帰って俺達だけが残った。
打ち合わせが無ければ、まず有り得ない。
聞くところによると、その主犯と向こうのグループのもう一人の主犯は昔からの付き合いらしい。
つまりは、俺達と同じ。
「何だよ、お前にも幼馴染み居たんだったら言ってくれりゃ良かったのに」
そう言ってやると、そいつは何かを言いかけて黙ってしまった。図星、だったかのかもしれない。
だとすると、俺に対して容赦なく言える理由も納得がいく。
むしろそうじゃなければ納得がいかない。
「それより、お前、あれからどうなったんだ」
「そっちが教えてくれたら教えてやる」
俺がそう言うと、そいつはぷいとそっぽを向いてしまった。
結局何も聞けなかった。そいつとそいつの幼馴染みがどういう関係なのかは、結局解らず終いだった。
敢えて追求はしない。いずれは、解ることだろうから。
俺と彼女は、以前より一緒にいることが少なくなった。
俺は本格的に受験を意識しなければならなくなったし、彼女は一人暮らしの準備やらで忙しくなったからだ。
精々登下校を一緒にするくらいで、遊びに行くなんてことは出来るはずも無かった。
別に寂しいとは思わない。ただ、それぞれの準備を始めただけだ。行く先が違うだけ。
きっと彼女も、そう思っているはずだ。
「進路が決まっても決まらなくても打ち上げやろうな〜」
「……頼むからその言い方は止めてくれ。縁起でも無い」
受験当日、俺を送り出してくれた友人はそう言って背中を押してくれた。
彼女は居なかったけれど、俺にはお守りがある。
帰り道に買っていた、チョコレートのオマケ。揃って出た、シークレットのお守り。
(だから、大丈夫)
ともすれば気圧されて負けてしまいそうな俺を支えてくれる、もう一つの、かけがえのないもの。それを握り締めて、自分を落ち着かせる。
焦るな、大丈夫だ、自分とみんなを信じろ、と。
「酷い顔」
送り出した連中と入れ替わる形で、彼女が迎えに来てくれていた。
忙しい中わざわざ時間を作ってくれたのだ。
素直に嬉しいが、案の定というか当然というか、あんまりな一言で憔悴しきって出てきた俺を迎えてくれた。
「半月くらい胃が痛みそうだ」
「大丈夫だよ」
正直自信が無いと弱音を吐く俺の背中を、そう言いながらさすってくれた。
帰路のバスの中、ふつりと糸が切れたように力が抜ける。
「眠けりゃ寄っかかんなよ」
「んー……悪いな」
この間と逆だなと思いつつ、小柄な彼女に身を寄せる。コロンの香りが鼻をくすぐる。
そろそろ着くと起こされるまで、俺は淡い桜の香りと共に、眠気に身を任せていた。


俺の胃痛がピークに達した頃、俺宛に一通の封書が届いた。
入学手続きの書類だった。


担任と進路指導室への報告の帰り、いつもの連中に捕まった。
どうやら仲間内では、俺が最後に決まったらしい。
これで仲間内の進路は全員決定した訳で、とりあえず一安心、というところだ。
「とはいえ、みんなバラバラかぁ」
そういえば、誰一人として同じ道へ進む奴は居ない。
俺と彼女、俺と連中、みんなバラバラなのだ。
「遊ぼうと思えば遊べるだろ、いつでも」
「だよなぁ」
だから寂しくない、と俺は言う。数瞬の沈黙。
「まぁ、せっかくだし、予定合わせて少しだけ遊ぼうぜ」
「この間みたいに向こうのグループも一緒に?」
「いやいや、予定合わせんの難しいし、俺らだけでさ」
「たまには良いな、そういうのも」
「この前がイレギュラーだっただけだろ。いつもと変わんねーじゃん」
これで最後になるかもしれない遊びの予定が立てられる。
終われば、しばらくは遊べない。
帰り道、結果報告と共に彼女にそう言うと、彼女は笑った。
「別れる別れるって思うから、寂しいのよ」
そう、約束をした日に聞いた言葉だ。
「二度と逢えなくなる訳じゃない、でしょ?」
それは、俺が彼女に向けて言った言葉だ。同時に、俺へと向けられた言葉。
「そうだったな」
随分と春めいた風が、木立を抜けていく。
暖かく、柔らかな、春の気配。
それは同時に、別れを告げる風だ。
「でもやっぱ、寂しいよね」
彼女の言葉が涙でにじんだような黄昏に溶けていく。
俺は彼女の頭を少し乱暴に撫でて、そっと唇を重ねた。

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