高校に入ってから継母に
「小遣いは自分で稼ぎなさい」
と言われ、八重洲の地下街にあるファンシーショップでバイトをする事になった。
ミッキーなどのぬいぐるみや、写真立て・貯金箱・キーホルダー・文具などを売っているそのお店は大丸の前に有った。
そこで働き始めてから1ヶ月くらい経ち、仕事にも慣れてきた頃、私は隣のお店の人や、大丸の催事の人などと仲良く話すようになっていた。
ある日、休憩時間中に隣の店にチョット顔を出すと、いつものバイトのお姉さんではなく、真面目そうな男の人が居た。
勢いよくお店に入っていってしまった手前、何か話さなければと思い
「あれ〜?久美ちゃんお留守ですか?もしかして店長さん?」
と話しかけてみた。
「あぁ。石川さんは今日公休だよ」
と、どことなく煙たげに私に言った。
「あ〜。休み・・・ですかぁ。じゃ、店長さん遊ぼ!」
と言ってみると、思いっきり迷惑そうな顔をして
「今仕事中だから」
と、書類整理をしながら言った。
あまりにも邪険にされたので、私は引き下がれないような気分になり
「じゃ、お仕事手伝ってあげる♪」
と、店の奥の方に進んだ。
「おいおい、仕事は一人で出来るからいいよ」
まだ、邪魔にされてる・・・
何か帰りにくい・・・
取り敢えず他の事を聞いてみようと、彼をチェックした。左手薬指に指輪を見つけたので
「店長さんって、奥さん居るの?」
と聞くと
「居るよ。なんで?」
・・・何でと聞かれても、返す言葉がない。とっさに
「店長さんかっこいいから、一目惚れしちゃった」
と・・・
何て事を口走ってしまったんだろう!
思っても居ない事だったのに。
自分で自分に驚いた。
店長は、少しはにかんで
「ありがとう、でも結婚しているし、子供も居るから無理だね」
と言った。
それで終わりにすれば良かった。
何でまた次の言葉を言う必要があったのか未だに理解できない。
私は
「何で無理なの?」
と聞いてしまったのだ。