小説『恭子』
作者:ハピにゃん()

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土曜日の夜、私は山本さんに電話した。

山本さんはどんどんと話を進め、次の日吉祥寺で待ち合わせをしようと言われ、流された私は約束を承諾した。

浅草に住んでいて、銀座線くらいしか乗った事のない私が、吉祥寺まで・・・

なんでそんな約束をしてしまったのだろうとチョット後悔していた。

当時は携帯電話もない。

待ち合わせ場所にちゃんとたどり着かないと、相手に会えない。

今みたいにだいたいの場所を決め。着いたらメールや携帯で「今どこ?」などと聞く事ができない。

私は、地理に明るい叔父に場所を教えてもらい、電車の乗り換えからすべてメモした。

日曜日、吉祥寺の待ち合わせ場所に来たのは愛車のシルビアではなく、会社のバンだった。

「ごめん、朝ちょっと納品があってまだ自分の車に乗り換えてないんだ。一緒に来てくれる?」

と私をバンに乗せ、彼の会社の駐車場に。

そして・・・

「着替えたいから、一回家に戻って良いかな?」

と彼の家に行く事に。

下連雀にある、平屋のハイツ(?)に彼は住んでいた。

「着替える間、車で待っててもらうのもなんだから、あがってテレビでも見てて」

どんどん彼のペースにはまっていく。

こざっぱりとした彼の部屋。

中森明菜の大きなポスターが貼ってあった。

テレビは何を見たのだろう。覚えていない。

着替えが終わった彼は

「遅くなっちゃったけどドライブに行こうか」と・・・

何処をどう通ったのかわからないけれど、いつの間にか渋谷に着いていた。

あの頃はあまり路駐もうるさくなかったので、渋谷のハンズの近くに路駐をしそこからスペイン坂に。

スペイン坂にあるステーキハウスでちょっと遅い昼食を食べた。

「此処のステーキって、俺がシアトルに居た頃に食べてたステーキの味によく似ているから好きなんだよ」

「え?山本さんアメリカに居たの?」

「そうだよ。アメリカで飛行機造ってた。ボーイング747ってやつ。知ってる?」

「う〜ん・・・何か聞いた事はあるけれど、どれがそれだかはわからないなぁ」

「だろうね。あ、俺の部屋に模型があったのわかる?それと同じやつ」

そういえば、部屋に飛行機のプラモデルがあった。

私は、彼がただ単に、プラモデルが好きなのかと思ったので、あまり気にとめてなかった。

「えっ?あ、あぁ〜っ!あれね!」

などと言っては見たけれど良く思い出せない。飛行機の話から話題を変えようと

「でも、山本さん飛行機造ってたのに、なんで今の会社に来たの?」

実際そう思った。今の会社より、飛行機を造る会社の方が凄いんじゃないかとかんじたから。

「今の会社の社長が起業する前にアメリカに来ていて、たまたま話す機会があって色々な話をしたんだよ。社長の考え方に感銘を受け、この人と一緒に仕事がしたいって思ったんだ」

「で、アメリカから戻ってきたんだ?」

「そう、俺はたぶん長生きしないから、自分が思った事、やりたい事をどんどんやっていきたいんだ」

「え?なんで長生きしないなんて言うの?」

「俺の母ちゃん広島で被爆しているんだよ。で、被爆した人から生まれた子供は長生きしないって言われているから、おれもたぶん、そのうちの一人なんだろうなって思うんだ」

「そんなぁ・・・、そんな事言わないでよ・・・医学はどんどん進歩しているから、絶対長生き出来るよ!」

彼の話はちょっとショックだった。

少し沈黙があったけれど、ちょうど食べ終わったので店を出る事で、話と気持ちを切り替えられた。

ゆっくり歩きながら、ウインドウショッピングをし、車へと向かった。

ちょっと人が多く私は前から小走りに進んできた人とぶつかりそうになった。

その瞬間、彼は私の肩を抱き寄せた。

ドキッとした。彼は私の肩を抱いたまま歩き続けたので、ドキドキがどんどん大きくなってくる。

顔も赤くなってきているのが自分でわかった。

「この後、どうする?」

と、彼・・・

「か、帰ります」

まだ17歳の私は気の利いた言葉など返せませんでした。

「じゃ、家まで送るよ」

「ううん、大丈夫。ありがとう。渋谷からなら銀座線1本で帰れるから」

「大丈夫?」

「うん、大丈夫」

そのまま、駅まで一緒に歩き、その日はそこで別れた。

結局、彼の会社から彼の家、彼の家から渋谷までの短いドライブになってしまった。


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