小説『気がついたその時から俺は魔王』
作者:VAN(作者のブログ)

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そう言ったものの……俺は、第2校舎の廊下を黙々と歩いていた。
いやべつに、魔王がどうとか、気になっているわけじゃないんだけどな……

「にしても広いな……」

時刻は一通り授業が終わった放課後。普段は本校舎である第一校舎で授業をしているため、第二校舎内の地理がまったくわからない。俺はここに入って数十分の間迷いに迷っている。
めんどくさくなったので、帰ろうかなぁ、とも考えたが……

『迷惑なのは、お前だけじゃないんだぜぇ?』

半分以上聞き逃していたアイツの発言……謎が多すぎて理解がおっつかなかった。
だからだろうか?
今日一日、なんだか胸の内がもやもやしてスッキリしない気分だった。
めんどくせぇけど、こういうの一番イライラするんだよなぁ……
そんなことを思いながら、俺はこの第二校舎内をうろついて、会議室とやらを探している。
にしても広い。馬鹿みたいに広いこの場所から部屋一つ探すのも一苦労だな。
う〜ん……ここは、人の手を借りるのが、吉だな。

「おい、ちょっといいか?」
「? なんです?」

通りすがりの気品のあるお嬢様のような女子生徒に声をかける。おおよそこの学園に似つかわしくない生徒ではあるが、まぁ美人だから許そう。

「会議室ってどこにあるか知らないか?」
「会議室……ですか?」

再度、小首を傾げて確認する女子生徒に頷き返すと、彼女は懇切丁寧に会議室までの道を教えてくれた。

「――を右に曲がって一番奥の扉です。わかりましたか?」
「あぁ。ありがとな」

そう言って再三俺に確認を取る令嬢に俺は頭を下げて礼を述べた。
すると、いいえ、と微笑みながらその女子生徒は自らも用事があるようで俺に軽く一礼しながら立ち去って行った。
あぁいうおしとやかな奴も学園にいるのか……
なんとなく頭の中で彼女と泉希と比べてしまった自分に呆れながら、俺は女子生徒が教えてくれた通りに校舎内を歩いていき、そしてようやく念願の会議室にたどり着くことができたのだ。
いや、願っていたわけではないけどな。

「…………」

会議室を前にして、俺はまためんどくさそうに目を細めた。
この扉開けたら、まずい気がする。
けれど……そうしなければ、なにも始まらない。

(はっ……なにがはじまるっていうんだよ)

考え込んでしまった自分を鼻で笑いながら、俺は軽い気持ちで会議室の扉を開けた。
開けてしまった。

「…………」
「…………あ?」

会議室、中央のソファに座る彼女と目があった。

「怜、君……?」
「おま……」

冷や汗を垂らし、ひきつった笑みを浮かべる幼馴染が、そこにいた。
相澤 泉希。俺と同じ学園に通うクラスメイト。そして、幼馴染。
背丈も体重(おそらくだが)も女子の平均と見ていいであろう、平凡な女子。そんな彼女が――

「こ、こんにちは、怜君!」

半ばヤケクソ気味に俺に向かって敬礼しながら挨拶をする泉希。

「おほっ。なんだかんだいいながらちゃんと来たじゃん。ツンデレですかぁ? 魔王様」
「どうぞ、ソファに腰を下ろしてください」

泉希の真似事か、ふざけた敬礼をしながら癇に障る笑みを見せる男と、相変わらず無感情なメガネ娘――愛奈が声をかけてくる。
そんな得体の知れないやつらと、泉希が――

「な、なんで……お前がいる?」

こんな平凡に似つかわしくない連中と一緒にいるんだよ?

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