2,3人は座れるであろう長いソファに、どっかりと、気まずい空気に身を縮こまらせた泉希の隣に腰を下ろした俺は、向かいに座る飄々とした態度の男と、その後ろに立って控える愛奈を一瞥しながら、ソファと同じぐらいの長さがあるテーブルを挟んで、話始めた。
「で、なんで俺をこんな所に呼んだんだ?」
昨日のことで耐性がついたかどうかはわからないけど、昨日よりも冷静な俺はちゃんと順を追って説明してもらうために、いくつかの質問を男にする。
だが、
「あぁ、その前に自己紹介自己紹介。俺たちまだ名前も知らないっしょ?」
そう言って話のペースを持っていく男をジト目で睨み付ける。
「……逆に、俺の名前も知らないくせにそこまで慣れ慣れしく接してたのかよ」
「親しき仲にも礼儀あり。じゃぁ、親しくない仲なら礼儀なしでもいいんじゃね?」
「も、って言ってるだろ。も、って」
「はぁい、じゃぁ自己紹介を始めます!」
そんなん知らん、と言わんばかりの話題のそらしようだな。
「俺の名前は、尚人(なおと)。学年はあんたより一つ上の2年。俺のご先祖様は、初代魔王の右腕として働いてたらしいぜ」
「……名字の方は?」
学年、ご先祖云々より、簡単な部分が抜けていることを指摘する俺に対して、肩を竦めてやれやれと首をふる男――改め、尚人。
「わかってないなぁ。これから勇者や――まぁ、いろんな奴らと戦うのに本名教えてどうするのさ?」
「? いや言ってる意味がわからん」
俺の言葉に、ポリポリと頭をかいてめんどうくさそうに簡単な説明を、尚人は始めた。
「――信じやぁしないとは思うけど、俺たちが戦う相手には術や呪い、能力を駆使してくるやつがいる。その時に必要とされる条件に、名前ってのがあるんだ」
「へぇ……」
…………いや待て俺。感心する前に1つ突っ込むところがあるだろうが。
「なぁ、戦うってなんだよ?」
「あ……」
言ってしまった、と言わんばかりに口を、あ、の形にしたまま硬直する尚人。おいおいおい、と言ってやりたがったが、俺は嫌な予感に身を震わしていた。
戦う?
なにそれ、おいしい――じゃなくて。戦うの?
え、学園バトル系小説だったのこれ?