小説『気がついたその時から俺は魔王』
作者:VAN(作者のブログ)

しおりをはさむ/はずす ここまでで読み終える << 前のページへ 次のページへ >>


「それでは、1つ、私の能力について」
「ん? 能力?」
「はい。力の強い魔族が持つ能力についてです」

あぁ……全然話題転換にも気分転換にもなってないじゃん。
とは、せっかく気を紛らわそうと微妙な話題のチョイスをしてくれた愛奈に言っては失礼だ。
よって、俺は複雑な面持ちでただ愛奈の言葉を聞くことになった。

「私の能力は――ずばり、催眠術です」
「催眠術?」

愛奈にしては珍しく、無感情だがなぜか得意げに、メガネの位置を戻しながら話し出す。

「催眠って……あの五円玉つかってやる――」
「なかなか古い手段ですが、間違いではありません。私も視覚を使った催眠ですし」

そう言ってまたメガネの位置をいじる愛奈。
そのちっちゃな動作に、俺は閃く。

「もしか――」
「そのもしかして、です」

言葉の先取りをされたくなかったのか、えらい早く俺の言葉を遮ってきた。

「私は、相手の目を直接見ることで催眠をかけるのです。催眠と言っても種々多様――記憶改変、誤認、視覚誘導……脳にかかわるあらゆる事を全部コントロールすることができます」
「そ、それって結構すごいことじゃないか?」
「ちなみにあなたにも何度かかけています」
「マジで!?」

脳をコントロールされるという穏やかではない能力に俺は身震いする。

「昨日、屋上であった時に、あなたの視覚を少しだけコントロールしました。離れていた私が瞬間的に目の前に現れた……そういう事ありませんでした?」
「あぁ……昨日の脅された時の……」

確か剣突き付けられたんだっけ。
そのことについては無視した愛奈が話を続ける。

「あれは実は、あなたの視覚をコントロールして、しばらくの間、私がその場を動いてない、ように見せていただけです。本当は普通にあなたの前まで歩いていきました」
「なっ――」

まさか……そういえばあの時、こいつメガネしてなかったような……
つまり、俺の目を直接見た瞬間、俺はこいつの催眠にかかっていた、ってわけか。

「なんか……最強じゃないか?」
「直接でなければ意味がありません。たとえば、あなたがメガネをかけたとしたら、私の催眠は利きませんし、メガネを取らない限りかける事もできません。そういう意味では、対策が簡単な能力ともいえます」
「なるほどな……」

だがまぁ、メガネを取ったこいつに気を付けさえすれば、問題はないのな。

「私の能力については以上です。それでは、作戦決行までしばらく待機をお願いします」

そう言って、もう話すことはないと言わんばかりに踵を返して立ち去ろうとする愛奈。っていうか、もう教室の扉を開けて出ようとしている。

「あ、ちょっと待てよ。俺の能力ってなんなんだ?」
「……はい?」
「いやだって、強い魔族には能力はあるもんなんだろ? 魔王っていうからには、結構強い能力が――」

あるんじゃないか? と言いかけた俺だったが、

「知りません、そんなの」

俺の臣下であるはずの愛奈に、そんなの、と言われた。
俺がそのままの口と体勢で固まっていると、愛奈は俺を見つめて、最後にこう言った。

「……トリガーが必要です」
「? ト、トリガー?」
「それがなんなのかはわかりません。それが外されない限りは……あなたは確かに一般人なのでしょうね」

そう言って、愛奈は扉を閉めてその姿と気配を消し去った。
独り、教室に取り残された俺は、胸に下げているお守り――というか、じいちゃんの形見のネックレスを無意識に握りしめる。

「はぁ……なんだってんだよ」

-15-
Copyright ©VAN All Rights Reserved 
<< 前のページへ 次のページへ >> ここまでで読み終える