小説『気がついたその時から俺は魔王』
作者:VAN(作者のブログ)

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外はすでに真っ暗闇。お月様は昨日と同じように真っ赤に染まっている。紅の月って、なんだか不気味なものを感じるな、と思いながら俺は教室の中に差し込んでくる月光を見つめていた。
時刻は、11時5分前。

「……もうすぐか」

そう呟きながら俺は、身震いする。別にトイレに行きたいわけじゃない。
11時になれば、勇者なる者が姿を現す。そいつと出くわしたら、俺はそいつを倒さなきゃいけない。
何度も、あいつらの妄言であってくれと信じたし、今もそれは変わらない。
けれど……

「腹、括らないとな」

1度首を突っ込んでしまった以上、俺は逃げることはできない。泉希が愛奈の目につくところにいる以上は、絶対に。
俺のせいであいつを巻き込んでしまったことに関しては、反省はしているが……本人は性格上、俺の数倍心配してるんだろうな。
あいつはお人好しだから……
人並み以上に……

「――はは」

自然と笑いが込み上げてきた。
なんだ、泉希。
お前特徴ちゃんとあるじゃねぇか。
俺は平凡で平均的な幼馴染の姿を思い浮かべる。
なんで今日の放課後、あの会議室にあいつがいたのかはわからない。だけど、それについて今は考えるべきじゃない。今は、目先のことについてだけ考えるんだ。
時刻は11時。

「……さぁ」

そう、目先のことだけ。

「っ――」
「魔王討伐でも、始めましょう」

教室の中央。黒板前の教卓に腰をかける俺の目の前には、

「勇者の名にかけて」

すでに、勇者が姿を現していた。

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