小説『気がついたその時から俺は魔王』
作者:VAN(作者のブログ)

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俺の目の前には、勇者の姿があった。
長い髪、メリハリのある体から見て、女性と見て間違いないが……相手は仮面をつけて、顔自体はよく見えない。服装もなんの変哲もない、この学園の女子専用の制服。けれど、その手には、ファンタジーの映画に出るような騎士団が持つ剣――刃渡り60センチぐらいで、刀身が極細のレイピアを、握りしめていた。

「あなたが魔王ですか」

そう話しかけてくる女性――いや、勇者。
勇者と……作戦開始早々、接触してしまった。

「……な、なんで――」

俺は、混乱していた。
作戦が……違うじゃないか! 俺が聞いていた作戦は――

11時→魔物出現→勇者と魔物の戦い→勇者と俺の対決→俺勝利……

――のはずだったのに……11時から全部すっ飛ばしてるじゃないか!?

「これはなかなか弱そうな魔王ですね」

悪口を叩く勇者の言葉は、俺の耳には届かない。いつもなら文句の一つでも返すのに……今は、俺の頭は混乱してなにも考えられる状況ではなかった。

「お、お前が勇者、なのか……?」

やっと口から出た言葉は、すでに答えが決まっているような問いだった。

「えぇ。あなたの敵――勇者です」
「へ、へぇ……」

やっぱりか……と俺が教卓から降り、勇者と同じ教室の床を踏んだ。まったく、こりゃぁ困った状況だな。

「随分と狙いすましたように現れたな。俺がここにいることをわかってたのか?」
「当然。敵の位置を正確に理解しておくのは、戦術の基本です。もしも、学園内全体に魔物でも放ってましたら、相手にするだけで夜が明けますし」

作戦も……予想の範囲内ってところかよ。

「では、11時きっかり。復活した初代魔王の討伐――」

もう話すことはない、と。
勇者は手に持ったレイピアを中断に構えて、俺に向けてきた。

「――始めます」

次の瞬間――

「っ――!?」

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