自らの体を1発の弾丸のようにして突っ込んできた勇者のもつレイピアが、俺の左肩を貫通した。直後、傷口から漏れ出す鮮血と共に、鋭い激痛が全身に響いた。
「ぐあっ!?」
「1日そこらで魔王となったものが……」
仮面の奥の瞳を細めて、勇者は呟く。
「選ばれし勇者の相手が務まりますか?」
「くっ――」
勇者の言葉に怒りを覚える俺が手を出そうとした直前に、瞬時にレイピアが俺の肩から抜かれた。露わになった傷口から鮮血が吹き出す苦痛に顔をゆがめる俺。と、それによって動きが鈍った俺は、次の瞬間、真後ろに向かって背中から教卓に叩きつけられた。
「がっ――!?」
息がつまり、短い悲鳴を漏らした俺はそのまま力無くその場に尻を着く。
なにが、起きたのかを確認すべく……俺は痛みが続く体を起こして顔を上げた。見ると、脚を下ろす途中だった勇者が俺を見下している。目で捉えることはできなかったけど……どうやら俺は蹴り飛ばされたようだな。しかも、おもいきり。
「……初代魔王の末裔とはここまで弱い者だったのですか? 私も久しぶりの戦闘で全力は出せませんが、これでは討伐ではなくイジメになってしまいます」
もうイジメになってるよ……と俺が周りの机を使って立ち上がり様に心の中でそう呟く。
今は、それぐらい余裕がないのだ。
勇者を倒すとか、人を倒すとか……愛奈の野郎、簡単に言ってたけど、これそんなにうまくいかないぞ。
「くっそ……」
「さぁ。あなたも反撃してください」
反撃すれば、イジメにはならないもんな、確かに。
俺は、拳を握りしめ、脚に力を込めて、床を蹴った。
(もう、遠慮なんてしてられない……やられた分は、やりかえす!)
そう心の中で叫びながら俺は、負傷していない右拳を勇者に向かっておもいきり、振りぬいた。ぬいた?
その拳は、空を漂っていた。
「残念です」
「っ――!」
そんな声は、俺の突き出した拳の下から聞こえてきた。
目をやると、そこにはしゃがみこんだ状態で、俺の右腕をしっかりと片手で掴んだ勇者の姿があった。
「やっぱり――」
そして、俺の腕を掴んだまま、自分を軸として一回転。遠心力の力も備わって、俺は簡単に勇者に振り回される形になり、次の瞬間には思い切り投げ飛ばされていた。
「うがぁっ!?」
どの教室にも必ずあるたくさんの机にぶつかりながら、俺は窓際の壁に激突してようやく動きを止めた。全身に鈍い痛みが広がり、口の中には血の味が広がる。
「ぐっ……げほっ! げほっ!」
詰まった息を咳と共に吐き出すと、それらと一緒に血が床に飛び散った。
戦闘開始、たったの5分ちょっとで、俺の体は全身ボロボロになっていた。
「――これではイジメになってしまいますね」