小説『気がついたその時から俺は魔王』
作者:VAN(作者のブログ)

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すました声でそう独り言を呟く勇者に、目だけは向けた俺は、なぜか笑えた。
おいおいおい……これは、洒落ですまないぞ。
こんなこと、喧嘩でだってしないし、ましてや、武器所持の相手と戦ったことなんて……

「あなた、私が女だからといって手を抜いたりしてませんか?」
「げほっ……生憎、俺に向かって平気で剣を突き刺してくる相手に対して優しく振舞えるほど、俺はできてないんでね……」
「……その性格は魔王そのものですが、実力と比例はしないのですね」

そう言って、俺が机や椅子を蹴散らしたおかげで出来上がった道をたどって俺へと近づく勇者。

「つまらないですね」
「あぁ、まったくだ」
「もう終わらせましょうか?」
「そうしたい……もんだな」

俺はそう軽く勇者の言葉をあしらいながら、ゆっくりと、ガタガタ震える足に鞭を打って立ち上がる。

「……では、終わらせましょう」

そう言って、立ち上がった俺の胸に向けてレイピアを構える勇者。
これ、本当に今日で俺の人生は終わるな。
と、思っていた俺のいる教室に、

「っ――!」

小さい悲鳴と爆発音と共に、教室の出入り口である扉やその他の瓦礫が吹き飛んできた。
俺と勇者が一瞬、その音に注目を浴びる。
と、埃を舞い上げて吹き飛んできたそれらの中に、俺はある人物の姿を見つけた。

「愛奈!?」

苦痛に顔を歪め、歯を食いしばって立ち上がる愛奈の姿を見て、我に返った俺はなんとか彼女の元へと向かおうとした。

「っ――!」

と、それを見逃さない勇者が、俺に向かってレイピアを突き刺してきた。いち早くそれに気付いた俺は、体勢を崩すようにして体を思い切りそらす。それによって空を漂った俺のネックレスのチェーンが、俺の代わりにレイピアの突撃をくらった。粉々になったチェーンは、繋がっていた宝石を俺の体から離して宙を舞った。
それに一瞬目を奪われた俺は、勇者の蹴りという追撃に反応できずに再び教室内を転がって、結果的に愛奈の元に近づくことができた。

「ぐ、ぐぐ……! おい、愛奈、無事か……?」
「問題ありません……」

先ほどまで苦しそうにしていた愛奈は、いつもの無感情な表情を見せて、手元の剣を杖代わりにして立ち上がる。
我が園の女子専用の制服は、上は薄いセーラー服にミニスカート。そんな露出度が少しだけ高い彼女の身体には、いくつもの傷がついていて、顔にもある傷口が目立った。

「な、なにがあった……?」

俺が立ち上がり、勇者から目を離さずに愛奈に尋ねた。愛奈は、先ほど吹き飛んだ扉の奥――つまりは教室の外の廊下に目をやりながら、冷静に答える。

「少し想定外の人物に合ってしまったのです……かなり用意周到な人物に」
「用意周到な人物?」

俺も、横目に勇者を見据えたまま、廊下側から現れた人物に目を向ける。

「――準備は怠ってはいけません。絶対的なミスを冒す前に、完璧な用意をしておけば……ミスなど起こりえません」

そう言って現れたのは、黒い燕尾服姿の人物。凹凸のない体から性別は判断しがたいが、声と男性よりも小さな体型から見て、女性であろう。そしてやはりというか、その女性の手にはレイピアが握られている。しかし、なにより注目してしまうのは、その人物がつける、両目を覆い隠すようなサングラスであった。

「なるほど……しっかりお前の対策されてきてるじゃないか」
「……申し訳ありません。近距離戦では、あちらの方が有利なようです」
「構わん……俺は10対1で負けてるからな」
「1じゃなくて0じゃないのですか?」

そう言って肩を竦める勇者を、再び視界の中央に捉えて俺は身構える。

「申し訳ありませんお嬢様。お嬢様の戦闘区域に入ってしまうとは……私、まだまだ配慮不足であります」
「まったく……あなたには後でしっかりと躾をしなくてはいけませんね」

そう冷徹な言葉で、燕尾服の女性を脅かす勇者。その言葉に、燕尾服の女性がサングラスの奥でしゅんとしているのが、目で見てわかった。
どうやらあちらにも主従関係があるようで……勇者はとても部下に厳しいようだ。

「俺が主でよかったな」
「……そうですね」

俺の言葉に、特に興味はありませんと言わんばかりに冷たい声で答える愛奈。どうやら俺の部下は主に厳しいようだ。

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