「とにかく、私はこの魔王を相手にするのは飽きましたわ。早々にこの戦いを終わらせます」
「はっ。了解しました」
そう言って、二人同時にレイピアを中断に構えて腰を落とした。なんだか、さっき突っ込んできた構えと少し違うような。
そんな事を考えていた俺。そんな俺を――
「離れてください!」
そう叫ぶように言った愛奈が俺を突き飛ばした。突然のことに、俺はまともな受け身もとれずに大げさにしりもちをつく。
「痛ッ! なにを――」
俺がその行動の真意を問おうとした瞬間であった。
「「はっ!」」
「っ――!?」
短く吐いた呼吸音と共に、2方向からの鋭い衝撃波が愛奈の身体に直撃した。声にならない悲鳴を上げた愛奈は、その衝撃波と共に壁に激突した。俺の真横を通り過ぎていくそれは、血を撒き散らす。当然、俺の顔にも、愛奈の血は付着した。
「ぁ……愛奈……!」
壁に叩きつけられた愛奈は、ぐったりと脱力仕切った状態で壁に身を預けている。俺はそんな愛奈へと駆けつけながら、震える声でその名を呼んだ。
見ると、右肩から腕の中間辺りまで、抉られたような傷口から血が溢れ出ていた。
「お、お前ら……なにした……?」
震える声で、俺は勇者と燕尾服の女性へと目をやった。俺の問いに、レイピアの刀身をなぞるようにして手をそえた勇者が答える。
「我ら勇者の血を引く者が使う衝撃波の一種――『快針の一撃』、通称・ニードルショットと呼ばれるものです。体全体を使って高速に突き出したレイピアから発射された細く鋭い衝撃波を、彼女に当てたにすぎません。まぁ、彼女はあなたをかばって私達の攻撃をまとめて受けたようですが」
「っ……!」
俺が……逃げ遅れたせいで。
愛奈は避けることができた攻撃を、わざわざうけたっていうのかよ?
「くっ……」
「! 愛奈!?」
うめき声のようなものを上げながら、なんとか意識があることを知らせてくれた愛奈の顔を、俺は覗き込むようにして無事を確かめる。いや、無事なわけがない。
「だ、大丈夫か……?」
「……攻撃は、やはり勇者の方が優れている。私は勇者の攻撃を防御して、あの者の攻撃を直撃しただけです。大した攻撃ではありません」
「っ……言ってくれますね」
自らの攻撃を卑下にされた燕尾服の女性が、悔しそうに歯を食いしばりながら一歩踏み出す。
「落ち着きなさい。躾のレベルを上げますよ?」
「――申し訳ありません」
勇者の言葉に、女性は足を止める。
それを見て満足した勇者が、再びレイピアを俺たち向けて、腰を落とす。
「そんな状態のあなたが、私達の攻撃を再び防御することは不可能でしょうね?」
「っ……」
「さぁ。これで終わりにしましょう」
そう言って、燕尾服の女性も腰を落としてレイピアを構える。また、あの攻撃がくる。
絶望に震える俺。そんな俺の服を、愛奈が後ろから引っ張るようにしてこちらを向かせた。
「逃げて……ください」
「――!」
「私は、大丈夫です。あなたさえ助かれば、これからの計画に支障がでることはない……」
な、なんだよ……
俺なんかのために、お前は身代りになるって、言いたいのかよ……?
「早く……」
「っ……!」
俺は、一般人だ。
こいつらみたいに、化け物みたいな力を使って、なにかを解決することはできない。
「「はっ!」」
短い呼吸音。それは、俺達を狙う攻撃の合図でもあった。
「あぁ、くそが!」
俺は、わけもわからず……愛奈の盾になるようにして前に躍り出た。
「っ!?」
「――――」
直後、俺の身体を貫くようにして直撃した衝撃波。俺は、腹部に強烈な熱と痛みを覚えながら、その場に膝から崩れ落ちた。
「ぁ――……」