小説『気がついたその時から俺は魔王』
作者:VAN(作者のブログ)

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キーンコーンカーンコーン……
と、始業の合図であるチャイムが学園から俺の耳に届く。やっぱり始業には間に合わなかったか、と校門の前で恨めしそうに本校舎を睨みつける。

「めんどくせぇな……」

さてこの学園――平華学園は平凡の中にこそ華はあり、という奇妙な校訓がある。
まぁ、そうは言ってもどこにでも才能もった奴や天才ってのはいるから、校訓はあまり守られてないような気もする。普通を教訓としている割にはなかなかの規模があって、本校舎に加えて最近できたらしい校舎が二つ。技術棟、美術棟、化学棟、それに体育館と、とにかく広さが尋常ではない。
俺も入学したてはよく迷ったもんだ。
とりあえず休み時間が始まるのを待った俺は、悠然と自分の教室に入っていく。
周りの生徒たちは俺が遅刻したのを気にも留めずに、それぞれ休み時間をクラスメイト達などと堪能している。

「優雅なご出勤だねー、怜君」

と、そんな中で俺の事を気に留め――声をかけてくる人物がいた。
呑気で明るい声をかけられた俺は、その声のした方向へと目を向けた。
そこには、嬉しそうに微笑む制服姿の少女の姿があった。赤茶けた短髪に、女子の平均ぐらいの身長、平均の体つき。我が母校にぴったりの女子生徒――俺の幼馴染の相澤 泉希(アイザワ ミズキ)である。

「お前こそ遅刻じゃないとは珍しいな」
「私はそこまで遅刻しないよ?」
「さすが……普通代表だな」
「へぅ!?」

俺の言葉に多少ながらも精神的にダメージを受ける泉希。意外と打たれ弱いところがあるこいつは、涙目になりながらわかりやすく落ち込んだ様子を見せてくる。

「相変わらず、怜君は素っ気ないなぁ……。なんで昔からそんなつまらなそうな顔してるの?」
「余計なお世話だ……っていうか、別につまらないわけじゃない」

そうなの? と小首を傾げながら頭に疑問符を浮かべる泉希。

「あぁ。現にお前といて飽きることはないからな」
「へ? そ、それって……」

俺の言葉に、若干頬を赤くしながらわたわたと俺から距離をとる。
なぜそんな行動をするのか理解はできないが。

「そ、それで怜君、今日はどうして遅刻したの?」
「ん。少し変な夢を見てな」
「夢?」

特に隠す必要もないので俺は、今日見た夢の事を泉希に話した。
すると、泉希はおもしろおかしくその話に笑う。

「あははは! 怜君が征服者かー!」
「まんざらでもないと思うんだがな……」
「確かに、怜君のSっ気は魔王みたいだもんね」
「そういうお前の普通さはスライム級だな」

ひどいなぁ、と苦笑する泉希に俺はふん、と鼻で笑い、あしらう。
だが、こいつはどれだけ冷たくあしらっても俺から離れたり遠のいたりすることはない。昔からそうだった……はずだ。

「ん? どうしたの、怜君?」
「なんでもない。お前は良いやつだ」
「な、なにいきなり……?」

突然かつ、俺から出るとは思っていなかった言葉に目を丸くする。失礼ではあるが、俺は別段腹を立てるということはない。イライラはするけど。

「変な怜君……。でも、怜君も良い人だよ」
「いきなりなんだ、気持ち悪いぞ。道中変なものでも食ったのか?」
「うぅ……私そこまで言わなかったのに……」

涙目でそう言った泉希。本当に、感情がハッキリしてて一緒にいてて飽きないやつだ。
そんな泉希は、なんでこんなに素っ気ない俺と一緒にいてくれるのか、時々疑問に持つのだが……興味はないな。
――キーンコーンカーンコーン……

「あ、一時限目始まる。じゃぁ、またね、怜君」
「あぁ」

一時限目の授業が始まる予鈴が鳴り、泉希は自分の席へと戻っていった。一時限目の授業は確か、数学……

(寝よう……)

興味ないからな、と俺は早速机に突っ伏した。
なぜ、なんにもやる気がでないのだろうか? それを知りたい気もするが……やはり、俺はそれに関して興味はないんだ。

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