正直、愛奈がなぜこれを壊せといったかはわからない。だが、今は、俺の臣下を――信じるしかない。
俺は、右手に思い切り力を込めて、その宝石を――砕いた。
俺の右手からこぼれる宝石の残骸……そこから黒い霧のようなものが、俺に纏わりついてきた。不気味さも覚えるそれは、徐々に俺の体全体を包んでいく。
『……トリガーが必要です』
『? ト、トリガー?」
『それがなんなのかはわかりません。それが外されない限りは……あなたは確かに一般人なのでしょうね』
作戦決行前、愛奈と交わした会話。俺は、高揚する気分の中で、その会話を思い出していた。
(トリガーね……なるほど)
そうして、俺の体に纏わりついた霧は、やがて俺の体の中に入り込んでくる。
そうか……
これで、俺は晴れて。
一般人から卒業だな。
「はは……」
自然と笑いが込み上げてきた。
「ははは……ははははは! はっはっはっはっはっ!」
「いきなり、なに……?」
俺の高笑いが、教室に響く
こんなに気分が高揚したのは初めてだ。俺は、ゆらりと立ち上がりながら、前髪をかきあげ、そうして言った。
「最高に、テンションがハイだぜ!!」
目を見開いた俺は、そう叫びながら勇者たちを睨み付けた。
俺が、人生の中でこんなバカげた台詞を吐いたのは、これが初めてだと思う。
だが、自分でこのテンションをコントロールすることができなかった。
内側からなにか煮えたぎってくるこの熱い感覚に、俺は興奮すらも覚えていた。
「さぁ! さっさとバトルを再開しようぜ!!」
あれだけ戦いを拒んでいたはずなのに、今は自分の力を使いたくて使いたくてしょうがない。ん? 力……力ってなんだ?
いや、そんなことはどうでもいい!
とにかく、俺は戦いたい!!
「なんなんです、あいつは……」
「なにかをしでかそうとはしているようですね……」
完全に、豹変した俺を引いた目で見ている勇者と燕尾服の女性。
そして、俺の目の前で燕尾服の女性の方は、レイピアを中段に構える。
「なにかをするまえに――」
そうして、お得意の突進技で、俺に向かってレイピアを突き出してくる。
「――それを封じます!」
「ははっ!」
突っ込んでくる女性。そんな女性と俺との間隔は約1メートル。この距離なら大丈夫だな。
俺は笑いながら、無意識のうちにその場で床を蹴った。
瞬間――
「がっ――!?」
床の一部が、柱の形状となって、噴き出すように天井に向けて隆起してきた。その床の一部は、女性の体を捉え、その体を吹き飛ばす。
やっべぇー! ゾクゾクするぜ!