小説『気がついたその時から俺は魔王』
作者:VAN(作者のブログ)

しおりをはさむ/はずす ここまでで読み終える << 前のページへ 次のページへ >>

「はははは! 最高だな!! この力は!」
「あ、あなたなにをしましたの!?」

その光景を目の当たりにした勇者が、愛奈の肩に突き刺していたレイピアを抜いて、俺に向ける。
説明を求めているようだが……

「悪いな。生憎、俺の臣下に向かって平気で剣を突き刺してくる相手に対して優しく振舞えるほど、俺はできてねぇんだよ!」
「っ――!」

そう言って、俺は再び床を蹴った。
直後、今度は斜め上に向かって突き出てきた床の一部が、勇者の体をとらえ、吹き飛ばす。

「ぐあっ――!?」

先ほどの俺と同じように、机や椅子を跳ね返しながら吹き飛ぶ勇者。しかしそこは一般人だった頃の俺とは違い、受け身を取ってすぐに体勢を立て直す。

「くっ――! なんの力……いや、考える暇はないですね……」
「おぉ!? 最初の余裕はどうしたんだよ、勇者様ぁ!?」

俺がそう叫ぶと、舌を打ちながらレイピアを中段に構え直して、腰を落とす勇者。
あの技を、再び放つつもりだ。

「この私を……侮辱するつもりですか」
「今のてめぇは、そんなもんだってことだよ」
「っ――!」

直後、勇者はそのレイピアを俺に向けて瞬発的に突き出した。そして、俺に向かって一直線に向かってくる細く鋭い衝撃波。
さて……じゃぁ、これも試してやろうか……
そう心の中で呟いて、手を出した瞬間。

「――――」

その衝撃波は、直撃した。
俺へと向けて衝撃波を放った……勇者に。

「なん、で……!?」

疑問と共に、腹部に強烈な痛みを伴った勇者はその場に崩れ落ちる。

「痛ッ〜〜〜〜ってぇぇぇけど、成功したぜ!!」

対して俺は、一人、右手の痛みに悶絶しながらそう流血する右手でガッツポーズをとった。
俺も、自分でなにをしたかはわかってないけど……多分、あの衝撃波に触った瞬間、相手に跳ね返るように、そう意識しただけだろうな。

「れ、麗華、お嬢様……!?」

先ほどの痛みから復活したのか、レイピアを杖代わりにして立ち上がった女性が、倒れこむ勇者に駆け寄る。

「へぇ……麗華っていうのか、勇者様よぉ」
「っ――! あなた……余計なことを……!」
「も、申し訳ありません……」

俺の言葉に、明らかに動揺を見せる勇者。まぁ、名前がばれちまったら、そりゃぁ大変だよな。
見ると、先ほどつけていた仮面も、倒れこんだ時に外れてしまったらしく、床に転がっていた。
俺が近づいて、その仮面を拾いながら勇者達に向き直る。

「こ、これ以上お嬢様に手を出すな!」

そう言って、勇者の前に立ちふさがる女性。そんな女性を鼻であしらいながら、俺は踵を返して仮面を、勇者たちに向けて放り投げる。

「なぁに、これ以上はなにもしねぇよ」
「! なんで、すって……?」

俺は、横目に勇者の姿を捉えながら、ニヤリと笑って見せる。

「魔王の情けってやつだ。レベルアップしたら、また俺に挑むんだな。今日は――」
「…………」
「――これで許してやるよ」
「っ――!!」

俺はそう吐き捨てるように言ってやった。
先ほどから、プライドが高い素振りを見せていた勇者には、効果抜群の言葉だろうな。

「ま、待ちなさい! 待ちなさいよ!」
「あぁ? それとも今殺されてぇのか……勇者様?」
「っ……」

今の俺だったら、それを実行することだって、簡単だろう。たとえば、そこに転がっているレイピアを使って心臓を一突き。もしくは、教室内の机や椅子を使って、圧死、なんてのもありだな。
だがまぁ、俺は今日すこぶるハイテンションだ。
許してやる。その言葉通り、俺は勇者たちから遠ざかっていく。

「ふっ……1日そこらの魔王じゃ、なかったようね……騙されたわ」

そう、苦し紛れに勇者が呟く。
俺はその言葉に、足を止めた。

「いや、それは間違ってねぇよ。俺は、昨日こいつらに魔王にされたんだ」

そう言いながら、壁際で気絶している愛奈に目をやる。

「……じゃぁ――」
「あぁ。そうそう、俺は――」

愛奈に、お疲れ様、と自分の上着をかけてやりながら、俺は勇者の言葉を先取りしてこういった。

「気がついたその時から、俺は魔王になっていた……そういうわけだよ」

-24-
Copyright ©VAN All Rights Reserved 
<< 前のページへ 次のページへ >> ここまでで読み終える