「ふぁ……」
「随分と眠そうですね」
寝ぼけた顔で欠伸をする俺に、緊迫感のある声で愛奈が俺に向かって一言。
まったく……誰のおかげでこんなに眠いと思ってんだよ、と俺はため息を吐く。
「俺はいつだって眠いんだよ」
「確かに、いつも授業も受けずに爆睡していましたね。先生方も呆れて文句もつけないようですし」
「お前なかなか辛辣だな……」
昨日の夜……あの生意気な口を利く尚人と合流した俺は、お疲れさん、という言葉をもらって、早々に帰宅することになった。ねぎらいの言葉があっただけましだが……俺、愛奈と話している途中だったんだよな。
まぁ、あの時は疲れていてそれどころじゃなかったため、俺は家に帰って爆睡した。
それで今に至るわけだ。
「ところで……」
「ん? どうした?」
何か言いたい事でもあるかのように、一度咳払いをした愛奈が俺に向かってこう尋ねた。
「……なぜ、着いてくるのですか?」
「は?」
そういえば、今に至るって言っておきながら説明してなかったな。
俺は、昨日のことが嘘のような普通の学園生活を終えて、今は愛奈と共に第二校舎へと続く、学園内の中庭を歩いている最中だ。たくさんの生徒が帰宅なり部活にいくなりするこの放課後の時間帯にな。だが、別に一昨日や昨日のことがあるならば、別段疑問に思うべきことでもないと思うのだが……
「あなたは、人の目というのを感じない人なのですか?」
「? なにをいきなり難しいことを……」
「ですから、その……」
そう言って、足を止めた愛奈が、視線を泳がせては、俺達の横を通り過ぎていく生徒達へと目を向ける。
何を言いたいんだ、と俺が首を傾げると、両手で持った鞄に力を込めながら顔を伏せる。
「……あの、人の目というか、噂というか……私たちは今まで何も関わりがなかったのですから、しっかりと距離を保っていくのが大事なのかと……」
「……あぁ。なるほど」
なんとなくだけど、こいつが言いたい事分かった気がする。
「わかっていただけましたか……」
「まぁ、なんとなくな。お前も、そういうの気にするのか」
「なっ――」
何気なく言った俺の言葉に、愛奈がおもしろいように取り乱し始めた。
「違いますよ。私が言いたいのは不自然というか違和感というか、そういう問題であって、別にあなたが思ってるような――」
「あー落ち着け、落ち着け。別にお前が考えているようなことにはならないと思うぞ」
「……なにも考えてません」
ぷぃ、と俺から視線を逸らした愛奈に、なんかおもしれなー、などと思いつつ、再び第二校舎に向けて歩き出す。
「……いいんですか?」
「あ? なんだ急に?」
「……相澤さんのことです」
愛奈の口から出たその名前に、俺は若干戸惑った。
「一緒にいてあげなければ、また危険な目に合うかもしれませんよ」
「あぁ、そうかもな」
最初に危険な目に合わせたのは、他ならぬお前たちなんだがな。
「まともに事情説明して信じるわけないからな。適当な理由で別れてきた」
「……そうですか」
なんとなく、愛奈がなにかを言いかけたような気がするが……まぁ、気のせいだろうし、なにより。
興味ねぇからな。