小説『気がついたその時から俺は魔王』
作者:VAN(作者のブログ)

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突然聞こえた甲高い叫び声と共に、なにか小さな物体が俺の体にぶつかってきた。突然のことに身構えることもできずに、俺はその場であおむけに転倒した。

「痛っ……てて――って?」
「ん〜! 魔王様〜魔王様〜♪」

そう言って、俺の上に乗っかって頬をすりすりしてくる少女。
身長は小学生高学年ぐらいから中学生ぐらいの低さで体つきはとても幼く見える。腰まで届きそうな長い髪を先っぽで一つにまとめている。服装は女子の制服に白衣と、見るからに研究者の恰好だ。くりりとした目はとても愛らしいけど……先ほどは、俺このガキにタックル喰らったのか?
そう思うとイライラしてくるのは仕方がないといえよう。

「おい、なにをしてるんだ?」
「キャァァァ! 喋ったぁぁぁぁ!」
「普通だよ、そんなの!」

どこぞのCMのガキみたいに発狂したガキ。俺はそのガキをとりあえず俺の上からどかしながら、立ち上がって見下ろす。

「尚人……こいつはなんなんだ?」
「あぁ、その人は――」
「――平陽学園、2年生。表向きでは理数系成績抜群の私を、人はこう呼ぶ! 能力解析(スキル)のDr.サンと!」

そう言って白衣をはためかせ、万歳をしたガキ――改めDr.サン。恰好をつけて万歳したのはいいが、そのポーズのまま俺を見てると、まるで抱っこしてとおねだりしてくる小学生みたいだぞ。

「ほぉら、魔王様も自己紹介!」
「あ、あぁ。俺は天月――」
「あぁうん。知ってる。天月 怜でしょ? 初対面の人に本名教えるなんて関心できないねー。あ、でも私はそれでも魔王様を尊敬してるぞ! この前の戦いでもすっごく格好良かった! あの能力使う時なんて最高! まるで人が変わったように急に暴れだすんだもん! 私録画しちゃった! あ、それから――むぎゅぅ!?」

いきなりマシンガンのように喋りだすDr.サンを、愛奈が背後から両頬を挟み込んで喋るのを止めさせた。

「魔王様がドン引きしてます……」
「なにふぁ!? だいふぁい、なんふぇさいしょにわらふぃのふぉころにこなかったふぉ!?」
「静かにしてください」

そう言ってさらにDr.サンの頬を強く挟み込んでくる愛奈。さすがに耐え切れなくなったDr.サンがジタバタと暴れながら何かを口走った。

「ばふふぉ、はふぃじゅっせんち! うえふと、ごじゅうふぉ! ひっふ、はふぃじゅう――」
「っ――!?」

途端に顔を真っ赤にした愛奈がDr.サンの両頬から手を放した。両頬が自由になったDr.サンは勝ち誇ったように愛奈を見上げる。

「どうしたのぉ、愛奈? 私はただたんにふぉいふぉい喋ってただけだぞぉ?」
「くっ……卑怯な」

なんで愛奈が怒っているのかわからないけど、お前相手を卑怯って言える立場じゃないからな。っていうか魔族みんな卑怯者なんだな。
俺がどうでもいい会話を横流しにしながら、研究室にいる他のメンバーにも挨拶をしておいた。暴走するドクターを持って、皆気苦労が絶えないのか、どこか悟りを開いたような顔をしている……

「まぁまぁそれぐらいにして、ドクター」
「うむ。私は心が寛大だからな。今日の所はこれぐらいで許してあげよう、愛奈」
「…………ありがとうございます」

ちっちゃなDr.サンが胸を張りながらそう言うのに対して、愛奈はジト目でそう心にもないであろうお礼を言った。

「あぁ、ところで今日はなんでここに来たのだ?」

ようやく本題に入ってくれるか、と俺はため息を吐く。

「今日はなぁ、あの魔王様について調べてもらいたいんだ」
「は、俺?」
「おぉぉ!」

尚人のいきなりの提案に、Dr.サンは目を輝かせる。
いやいきなりだな本当に。

「おい、俺についてって……一体なにを調べるつもりなんだ?」
「決まってんじゃねぇかよ」

さも当たり前のように、尚人はこう言う。

「お前の能力についてだ」
「能力……?」

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