小説『気がついたその時から俺は魔王』
作者:VAN(作者のブログ)

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「はぁ〜いチクっとするよぉ」

――ブスッ!

「いてぇ!? おい! チクッじゃない!? チクッじゃ!? なんかすげぇいたい!?」
「気のせい気のせいー」

そう言って血を吸った注射器の針を抜いて、俺の腕に乱暴にガーゼを押し付けるDr.サン。俺は、文句をつけたい気持ちを押し殺しながら博士の動向を見つめていた。

「それじゃぁ、そのネックレス貸して」
「ネックレスか……」

俺は、昨夜の事を思い出しながら、あの時の事情を彼女を含めて皆が知っていることを察する。先ほど尚人から説明されたが、どうやら、監視カメラのハッキングはここのメンバーの手によって行われたようで、監視カメラの映像が映し出されるのも、ここのPC画面のようだ。事情を知っているなら問題ないか、と俺は首からネックレスを外しながらDr.サンにそれを渡す。
俺の血とネックレスをウキウキ気分で解析し始めたDr.サン。奇妙なカプセルに放り込まれたネックレスは、そのままとある機械に接続された。
ガキ相応の表情はするのだが、やることがガキの領分じゃない。

「ところで、なんで血なんて採取するんだ?」

俺の質問に、尚人がイタズラめいた笑みを浮かべながら逆に聞き返してきた。

「魔王様はなんで採取したと思う?」
「今更、俺が初代魔王の末裔だってのを信じられなくなったとか?」
「ぶっぶー! ざんね〜ん! もっと現実的に考えようぜぇ?」

すでにこの状況が現実的じゃないんだがな……と、俺が心の中で文句を吐いていると、尚人が自分の胸のあたりを指差しながらこう説明を始めた。

「いいか? 俺たち魔族の能力って、言うならば血だ」
「血?」
「あぁ。先祖代々受け継がれる魔族の血が、能力を決めるんだ。例えば、簡単なところで、火を扱う能力を持った男の魔族がいるとする。その男の子孫は、その男の能力に類似した能力を受け継ぐわけだ」

そっくりそのままにならないのは、母親の方の血も多少あるからだ、と尚人は付け足す。

「つまり、先祖代々受け継がれてきた能力が変化して変化して変化して……たどり着いたのがお前の今の能力、ってわけ。そしてその能力ってのは遺伝子によって左右される。つまり、人の血、ってわけだ。だから、能力を解析するのは、血を採取して調べるのが一番手っ取り早いってこと」
「なるほどな……」

なんとなくだが、今回の例えはわかりやすかった。そういえば、Dr.サンがドクターって言われるのも、そういう研究をしているからか。
能力は血……か。
俺の親父やじいちゃんにも能力あったのかなぁ、などと不思議な事を思いながら、俺はDr.サンの検査を見つめる。

「ネックレスは……まぁ、当然調べるよな」
「それがお前の能力のトリガーなのだとしたら、調べる必要はあるわな」

尚人の言葉に、俺は昨夜の事柄が脳裏に蘇った。

「そういやぁ……おい、愛奈。なんで俺のネックレスについて知ってたんだ?」
「……はい?」

俺の言葉に、愛奈は首を傾げながら確認を取る。

「いや、俺が勇者と遭遇する前とか戦った後とかに言ってたじゃないか。トリガーだの、受け継がれたものだの……なんであんなに知ってたんだ?」
「あぁ、それは……Dr.サンに教えてもらいました」
「またあいつか」

ガキのくせにいろんなこと知ってるんだなあいつ……

「魔王の血を引き継ぐ者は、その強力すぎる能力を封じるために、能力を制御できる成人まで抑圧装置……のようなものを先祖代々受け継ぐようです」
「封じるのは能力だけじゃないんだけどなー」

そう言いながらパソコンから目を離さないDr.サンが説明に付け足してきた。

「魔王様の持っているネックレスは典型的に、感情を封印することにも長けてるのだ」
「感情……?」

まさか。俺は笑ったりするし時には泣いたりもする。感情が抑圧されていることなんてありえないだろ、などという質問を俺がDr.サンに投げかけると、こちらを振り向きもせずに頭をかきながら具体的な答えを提示する。

「魔王様って、よく興奮したり、ハイテンションになったりする時あるの?」
「あ? そういえば、あまりないといえばないな……」

あの勇者との戦いの時ぐらいだろ。

「つまりはそういう、興奮や高揚をこのネックレスには封印されているのだよ。たまりにたまった感情は、封印が解かれた時に暴発する」

だからあんなにバカな言動してたのか、俺……
日頃どれだけ俺が興奮を抑えているのか、ちょっとだけ心配になってきた。

「なんでそんなめんどうくさいことを……」
「つまりはね、血が問題なのですよ」
「血……能力のことか?」

確認をとると、そうそうそう、と嬉しそうにDr.サンが再三頷く。

「興奮することによって、血圧高くなったり血流の流れが激しくなったりするでしょう? そうなると能力も一緒に、一時的だけど強力になったりする。でもそれは、いわゆる能力の暴走のきっかけになるのです」
「へぇ……意外とよくできてるもんだ」

それを知っているガキもすごいけどな。
などと感心していると――
ビッー、という警告音のような音がPCから鳴って、俺はびくりとしながら身構える。

「ありゃりゃ、やっぱり概定値オーバーか……」

赤く点滅する画面を見つめた博士がそうぼやいた。

「だろうなぁ。そんじょそこらの抑圧装置とはわけが違うし」
「おい、どういうことだ?」

結果を聞いた尚人が立ち上がり、Dr.サンの機械からネックレスを取り出す。
それを手に尚人は、にぃ、と笑いながら俺に向き直る。

「もうちょっと魔王様の能力について解析したかったけど、こっちの機械の方がネックレスの力に耐えられなかったみたいだってことよぉ」
「それじゃぁ……無駄足ってことか?」
「いんやぁ。1つだけやることできたからいいわぁ」

そう言って、俺に向かってネックレスを投げつけてきた尚人。俺はそれを受け取りながら、首を傾げた。

「やること?」

すると、尚人は再び、にぃ、と笑う。悪戯めいた笑みで。

「――真実は実戦の中にあり、ってな」

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