その後、なぜか自称臣下の尚人から解散宣言をされ、俺は帰宅することになっていた。のだが。
「はぁ……今日も夜来なくちゃいけないのか」
ため息を吐く俺は、帰り支度を終えた鞄を手に玄関で愚痴をこぼしていた。
結局、俺の能力について詳しい事がわからなかったため、今日の夜、エキシビションマッチなるものを突然行うことになった。今夜の11時、昨日勇者と戦ったあの時間に集合とのこと……自然とため息が出るってもんだ。
「それが魔王となった者の務めです」
そしてなぜか愛奈も一緒にこの玄関にいる。
なんでいるのかといえば、まぁ彼女もまた女子寮に帰るという単純な理由なのだが。俺も一度男子寮に帰って寝る……本当に昨日今日と疲れることばかりだ。
「魔王って……もっとこう、高みの見物とかしてるもんじゃないの?」
「そういうお方もいますけど、魔王様が直接手を下さなければ世界は救われません。今の魔王様は最弱の魔王なのですから」
失礼な……
「というか、その魔王様ってのはなんか嫌だな」
「? 魔王様は魔王様では……」
「みんな名前やあだ名で呼んでもらってるのに、俺だけ職業名じゃないか」
はたして、魔王が職業なのかどうかは置いておいて。でも、某RPGゲームでは勇者も賢者も職業って呼んでるよね。
俺がそう提案すると、愛奈が首を捻る。
「……魔王・怜様?」
「いや、ちょっとそれじゃ……てか、普通に天月とか、怜とかでいいよ」
「では、天月様」
「様はやめてくれ……」
「……天月さん?」
「――まぁ、それでいいか」
まぁ、まだちょっと硬い感じがするけど、いいか。愛奈に柔らかい表現を求めても仕方ないし。
一応それで満足しながら、俺は外履きが入っているロッカーの戸を開けた。と、
――パサッ……
「ん……?」
下駄箱から俺の足元に、何かが落っこちてきた。
見ると、それは一通の手紙……手紙?
「どうなされました?」
「いや、手紙が……」
俺が拾い上げたそれは、ただ紙を三折りにしただけの質素な手紙だった。
「ラブレター……ではないですよね」
「――だとしても返事はノーにしたいな。なんだこの愛情の籠ってない手紙」
そう言いながら、俺は手紙を元の状態に開き戻す。文面に目を通して、
「っ――」
そして、目を見開いた。
『今夜の11時。昨夜と同じ場所にて、貴様を倒す』
そう単調な文章で書かれた手紙に、俺は苦笑を漏らした。
「愛情の欠片もありませんね」
静かに呟いた愛奈の言葉に、まったくだ、と同意しながら俺は愛奈に手紙を渡して、ため息を一つ。
「返事はノーじゃ……」
「ダメです」
ですよねー。