小説『気がついたその時から俺は魔王』
作者:VAN(作者のブログ)

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手紙は、おそらく昨日戦った勇者――成沢 麗華が書いたものであろう。
今夜11時……そして昨夜と同じ場所って指定が手紙にはあった。この2つの事項を知っているのは俺達と、直接戦ったあの勇者ぐらいだろう。
ただ、いかんせん俺は尚人との特訓という先約がある。正直断ろうかなぁ、なんて軽い気持ちでいたが……この件を電話で尚人に話すと、

『なぁんだ。相手がいるなら俺がわざわざ手を煩わせるこたぁないなぁ。じゃぁ、存分に戦ってきんしゃい』

そう言って一方的に電話を切りやがった。
――というわけで、

「よ、よぉ」
「…………」

俺は今、暗がりの教室にて、例の勇者様と対面していた。
昨日と同じ仮面、昨日と同じ制服。
唯一違うのは、俺と勇者様の立ち位置が、昨日とは入れ替わっていることだろうか。
深夜11時。
真っ赤な月が教室を照らす中で、二人きり。手紙の通り、独りのようだが、俺は嫌な汗を背中にびっしりとかきながら、その表情を掴めない勇者様に声をかける。

「なかなか憎い演出だな。一瞬、ラブレターかと思ったぞ」
「いまどき、下駄箱にラブレターを入れる人なんていませんよ。あなた、もらったことあります?」
「ふっ……生憎もてないんで」

それは残念な人ですね、と勇者が肩を竦める。いや余計なお世話だ。
ちょっと癪に障ったので、反撃と言わんばかりに俺は微笑みながら勇者に言う。

「なんでまた俺と会う気になった? 昨日あれだけ負かしてやったのにな」
「それは結果的に、です。打ち負かしていたのは私の方でしたから……油断をしてしまいました」

おぉ、負け犬の遠吠えってやつか? と俺が冗談交じりに呟こうとした時だった。勇者の手が、仮面へと伸びる。

「やはり、初代魔王の末裔という事実なだけあって、能力解放の時の実力は確かなようですね。私としたことが、誤った判断をしてしまいました」
「…………」

勇者の言葉に、俺は静かにネックレスへと手をかけた。

「あなたは、魔王。そして私は勇者……」

そう一度区切り、勇者は――成沢 麗華は仮面を取って、その素顔を露わにした。

「……手加減は元より、遠慮は――してられません。魔族を倒す。それが私の使命です」

整った顔立ち、強い意志を持つ碧眼。
この時間、俺は再び麗華の素顔を目の当たりにした。

「……やっぱりな。あの時は世話になったな」
「? なんのことです?」

そう言って首を傾げる麗華。

「会議室に案内してくれた時のことだよ。あの俺達が戦った日の昼のことだ」
「……何を言っているかわかりません」
「ん? いちいち人の顔を覚えていられないタチか?」
「間抜けの顔は覚えられません」

そう言って、教卓に立てかけていたレイピアを手にする麗華。俺も、ネックレスを握りしめる。

「言ってくれるな。その間抜けにお前は昨日負けたんだからな」
「……能力を使い始めた魔族は調子に乗りやすいと聞きましたが、本当のようですね」
「っ……なんだと?」

麗華の言葉に、俺は自然とネックレスを握る手に力がこもっていた。
麗華を睨む俺の反応を見て、彼女はふふん、と微笑みながらレイピアを一振り。
ヒュン、と空を凪ぐ音が教室に響く。

「単純なバカ、と言いたいのです」
「――へぇ。そりゃぁ、俺にお似合いだ」
「そして、あなたの仲間にもですね」
「勝手に……言ってろ」

これ以上、話合うつもりはない。
俺は、ネックレスを握る手に、力を思い切り込めた。直後、粉々に割れたネックレスから昨日と同じように黒い霧が発生して俺の中に取り込まれていく。
瞬間的に、体の内側から湧き出るような感覚に、俺は高揚した。

「ハッハー! 最高にハイな気分だぜ! ――さぁ、言葉はもういらねぇ! 今日は泣くまで帰さねぇからな!!」

すでに何度も思ってるが、普段の俺からしたらとてもバカなセリフだ。

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