小説『気がついたその時から俺は魔王』
作者:VAN(作者のブログ)

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とにかく、俺はそう吠えるように叫びながら、勇者に向かって床を蹴って飛び出す。その際に、駆け抜けていく直前に触れた机が、不規則な軌道を描きながら勇者に向かってふきとんだ。注ぎ込んだ意志の通り動くそれに先陣を切らせる。

「すぅ――っ!」

麗華が大きく息を吸い、呼吸を整えた直後。彼女に向かって飛んだいずれの机も、麗華の冷静な剣さばきによって、すべて弾き返されてしまう。
だが、それぐらいは今の俺でも冷静に予測できた。

「っ!」
「ハハァ!」

直後、火花を散らしてぶつかり合った剣と――鉄製のパイプ。
どこから取り出したかと聞かれれば、それは簡単な答えだ。パイプを組み合わされてできている椅子に、分解する意思を注ぎ込んで、その一部を使ったのだ。剣身の細いレイピアを受け止めるぐらいの強度はあるだろう。
俺と麗華は、つば競り合いになりながら、お互いの剣と視線を交わした。

「昨日は尻尾まいて逃げ出した野郎が、俺に勝てるってのか!?」
「昨日の私は本気ではない、と捉えてもらえれば問題ありません」
「はっ! 負け犬の遠吠えとはこのことだよ――なっ!」

パイプに力を込めると同時に、麗華を吹き飛ばすぐらいの勢いでそれを振りぬいた。
が、麗華を吹き飛ばすわけではなく、彼女はバックステップで俺の攻撃をやり過ごしていた。
綺麗に着地して、俺の動きを見定めるように距離を置く麗華。

「……ふぅむ」

その行動と様子を見て、俺は顎に手をそえながら首を捻る。

「今日は随分と逃げ腰なんだな」

そう言った俺の言葉に、麗華はほんの少しだけ眉を動かした。
今の一瞬の戦闘だけでも十分にわかる。昨日のコイツとの違い、違和感。すべて、受けの姿勢なのだ。昨日のような、最初から戦闘終了までずっと攻撃をしかけてきたコイツとは、全くを持って、戦闘のスタイルが違う。
麗華は、レイピアを一度おろし、肩の力を抜いて、俺の言葉に答えた。

「失礼な言い方はやめてください。これが私の本来の戦い方です」
「気にくわねぇ戦い方だな」

いつもの俺なら、別に文句を言うことでもないのだが。
ハイテンションな俺は、そんな麗華の戦闘スタイルの変わりようにイライラしている。落ち着こうにも、興奮状態の俺が落ち着けるわけもない。
そんな俺を嘲笑するかのように、麗華が口元に笑みを浮かべた。

「気に食わない……ふふっ。そうでしょう」
「あぁ?」
「あなたの能力は時間制限つきなのですからね」
「っ……!」

俺は、思わず息を呑んだ。
なんで、そのことを知っているのだ……
戸惑う俺の表情から、考えを読み取ったのか。麗華が教室を見渡しながら微笑む。

「この場所で……あなたは昨日、自分の能力について勝手にベラベラ喋っていたじゃないですか」

昨日――あの、麗華達を追い払った後……愛奈と、俺の能力について説明していた時のこと。あの時、俺は愛奈に対してその事を説明した。他の誰にも説明してはいない。
まさか、愛奈が裏切るわけがない……じゃぁ、聞かれていた? どうやって?
いや……今は、そんなことを考える暇はない、よな。
その表情から笑みを消した麗華が、俺にレイピアを向ける。

「戦闘開始から5分……」

静かに呟いた麗華の言葉。
その時間は同時に、俺の能力が使える、残りの時間も物語っている。

「あと5分から10分持ちこたえれば……私の勝ちですね」
「っ――へっ! それだけありゃぁ、充分だよ!」
「……改めて、言わせてもらいます」

そう、一度言葉を区切って腰を落とした麗華。昨日と同じ、『快針の一撃』の構えだ。

「手加減は元より――遠慮はしません。本気でいきますよ」
「そりゃぁ、楽しみだな!」

再び、床を蹴った俺。
それが相手の思惑通りだったとしても関係ない。
今の俺は、自他共に認める魔王なのだから。

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