小説『気がついたその時から俺は魔王』
作者:VAN(作者のブログ)

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10分。
それは俺が能力を使える貴重な時間だ。
その10分の間に、俺は勝負をつけなくてはいけない。
そうしなければ、いけない――はずだったのに。

「うおぉぉ!」
「っ――!」

俺達がいつも使っている教室は、一般人が見れば何が起こったかわからないぐらい荒れ果てていた。机や椅子は散乱し、窓ガラスは割れ、しまいには床までも荒れ果てる始末。
そんな中、俺は叫びながらそこら中に散らばっている机に意識を注ぎ込んでデタラメに吹き飛ばす。だが、その吹き飛ばされた机の軌道に合わせて、麗華はレイピアを振るい、自らの体にまったくの傷を負わせることはなかった。

「はぁ……はぁ……」
「……ふぅ」

お互い、肩で息をするようになってから数秒の沈黙。と、息を整えた麗華が、唐突にレイピアを下ろす。

「10分……経ちましたね」
「…………っ――!?」

わかっていた。
焦っていた。
そして今、そのタイムリミットがきてしまった。

「――ぐっ!?」

体の内側から、ひどい苦痛が響く。ドクン、と一度血が脈動すると同時に、俺の体から黒い霧のようなものが抜けていく。
そして、俺の目の前に、再び形を成したネックレスができあがった。

「どうやら、10分以内に私を倒すことはできなかったようですね。ま、当然と言えば当然の結果ですが」

そう言って俺を嘲笑する麗華の目には、もう勝利が見えているのだろう。
調子に乗りやがって……と、毒づこうとした俺は、その場で膝から崩れ落ちる。一緒に、ネックレスも床に落ちて金属音を奏でた。

「はぁ……はぁ……」

体が鉛のように思い。
重力ってものを肌で感じられるぐらいに、全身脱力仕切っている。
これが、能力を使った後のリスク。戦闘中には感じなかった疲労が一気に俺にのしかかってくる。

「くそっ……」
「ふふっ。宣言通り、私の勝利で幕は閉じる。そしてあなたは明日から、魔王としてではなく、敗者として、私の下僕になる。ハッピーエンドですね」
「はっ。そんなハッピーエンド、くそくらえだ……」

余裕の表情を浮かべる麗華に、俺はそう吐き捨てるように言った。
両拳を思い切り握りしめ、重い体に鞭打って俺は体を起こしていく。

「勇者が魔王を倒してハッピーエンド、なんて話は……もうありきたりだろ?」

ピンチだからこそ、ふてぶてしく笑え。
なーんか誰かが言っていたような気がする。俺は、こんな状況だというのに、その言葉通りにふてぶてしく笑って見せた。
その表情が癪に障ったか、麗華は眉を寄せて俺を見下してくる。

「ありきたりでもベタでも、これがお約束、というやつです」
「お約束ねぇ……ははっ、おもしれぇ」

そう言って、気だるく俺は床に落ちているネックレスを拾い上げる。
そして、それを握りしめた。

「お約束ぶっつぶせる展開なんて、最高じゃねぇか」
「っ――」


瞬間、力を込めた手の中で宝石が砕けた。
同時に黒い霧が出現し、再び俺の中に入り込んでくる。

「ふ、」
「頭が、おかしくなりました……? それ以上戦ってどうするんです?」

レイピアを構え直した麗華は、そう理解できないと、首を振る。

「はは……ふはっはっはっはっはっはっ!」

本日二度目の能力解放と共に、今まで思うように動かなかった体が、幾分ましになる。
立ち上がりながら、俺は両手を広げて高笑いを続ける。

「はっはっはっ! 理解できねぇよな!? 俺にだってわからねぇもん、てめぇが理解できるわけねぇだろう!」

そうだ。
俺だって、なんでこんなになってまで戦っているかわからない。
だけど――

「今更、こんな楽しいことやめれるわけねぇだろうがぁっ!」

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