再びスイッチが入った俺は、片っ端に手の届くところにあった机や椅子に意識を注ぐ。直後、俺が再び能力を使うまでの間その場で浮遊し始める。
それを見た麗華は、ため息を吐きながら、レイピアを中段に構える。
「愚かですね。さすが魔王です」
「それは褒め言葉として受け取ってやるよ」
にぃ、と口の端を引いて俺は笑った。
そして、俺はゆったりした動作で――机に触れた。
「っ――!」
瞬間、連鎖的に複数の机や椅子が吹き飛んでいく。
先ほどと同じ、麗華はそれらの軌道を読んで、回避やらレイピアで弾くやらで防御する。そう行動することは充分にわかっていた。
「ワンパターンですね」
「そうだろう、なっ」
麗華の言葉に返答した俺は、その場で床を蹴った。
と、直後、麗華の足元に異変が生じる。一本の槍のように突き出してきた床が、すれすれで交わした麗華の服をかすめる。避けられたが、充分に麗華は体勢を崩してくれた。
「くっ――!?」
「いくぜ、この野郎っ!」
昨日も不意を突いたこの攻撃で、俺は攻撃のチャンスを作る。バランスを崩した麗華との距離を一気に縮めながら、俺は今度は何も持たずに素手で攻撃にかかる。
「ちっ――!」
体勢を立て直しつつ、麗華はレイピアを深く引いた。思った以上に早く体勢を立て直した麗華の表情に再び余裕が表れた。
『快針の一撃』――あれがくる。
距離は縮まる一方。
直撃は、免れない。
「はぁっ!」
「っ――!」
次の瞬間、
「――――」
吹き飛んだのは、麗華の方だった。
「痛っ――!?」
黒板にぶち当たりながら、麗華は短い悲鳴を漏らす。
「ぐおぉ……いってぇ……!」
流血する右手を押せながら、俺は苦痛に顔を歪める。
いてぇ……やっぱりいてぇ。
これも、昨日と同じ戦法。麗華のあの技を、ただ跳ね返すだけの戦法。ただ、跳ね返すには攻撃を受けないと意識を注ぎ込めないから――まぁ、自爆攻撃って感じだな。
「ちゃ、ちゃんと復習してこなかったようだなぁ? この攻撃で負けたの、忘れたのか?」
俺はそう言って、なんとか笑う。
この能力発動時間中でも、ちゃんと痛感はあるから困る。疲労感は全部吹っ飛ぶのに、ご丁寧な能力だぜ、まったく。
「っ……なるほど。やはりやってきましたか」
先の攻撃は直撃。負傷した左肩を抑えながら、麗華は立ち上がった。
その表情に、先ほどまでの余裕はない。
「はははっ! さぁ、昨日はこれで倒れたが、今日はそうはいかねぇんだろ!?」
「当然です。あなたが倒れるまで、倒れるつもりはありません」
「そうでなくちゃ楽しくねぇ!」