小説『気がついたその時から俺は魔王』
作者:VAN(作者のブログ)

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特に意味はなかった。
どこか静かな場所で昼飯でも食べられればよかった。

「…………」

そこで思いついたのが、第二校舎の会議室。
あそこは、放課後から夜にかけてはただの変人の集まりと化すけど、日中は至って静かな、無人の部屋だ。一人になるには都合の良い場所だと思った。そうまさにオアシス、とでも言ってもいいだろう。大げさだと思うが。
そんな会議室に続く廊下を歩いていた俺は、オアシスの扉の目の前に立つ人物と目が合ってしまった。

「よぉっ! 魔王様!」
「…………」

なんでお前がここにいる。
人を馬鹿にしたような目と微笑みを俺に向けて、能天気な口調で俺に駆け寄ってくる。

「さぁ、お仕事だぜ。魔王様〜♪」
「…………」
「今日の放課後、南庭園に集合。了解?」

腹立つ喋り方のこいつを黙らせるには、とにかく従うしかないんだよな……めんどうくさいけどな。


          *


南庭園。
そこは園芸同好会という生徒たちが管轄している学園の庭園の一つ。春夏秋冬とその季節ごとにあった花が東西南北に分かれて植えられており、学園の者ならば誰でも季節ごとに花を楽しむことができるのだ……と、前に泉希が教えてくれたな。特に興味なかったが。
南は確か夏の花だったかな。ヒマワリを始めとした、アジサイやらコスモスやらが植えられており、もうそろそろ開花の時期だとか……これもまぁ泉希談だ。
放課後、言われた通りここに来たけど、まさか花を見に来たわけじゃないよな。
俺が眉を寄せて庭園中央に展開された花壇を見つめていると、

「おろろ? 魔王様はお花が好き? いやはや珍しい」
「……少なくともお前みたいに生意気じゃないからな。静かでいい」

横目に見据えた人物とはもちろん、ここに俺を呼び出した張本人である尚人。両ポケットに両手を突っ込み、いかにも気だるすな足取りで俺の隣に立つ。

「それじゃ、愛奈は花みたいなもんかぁ?」
「愛奈……まぁ、確かに静かだしな」

あながち間違いじゃない。生意気だけど。

「そう言えば愛奈は今日は来ないのか?」
「あぁ。あいつは別行動。今回は待機させてる」
「なんでまた?」

2,3日行動を共にした仲だし、俺の中でもあいつが傍に控えていると安心感みたいなものを覚え始めている。いたらいたで終始おっかないところあるけど、いなかったらいなかったで少し……な。
そういう感じの質問をしたはずなのだが尚人は、

「いや。だって俺も目立ちたいもん」
「…………」

言い切りやがった。
俺は意表をついてきたその言葉に、返す言葉が思いつかずに沈黙。
構わず尚人は続ける。

「俺、初登場してから特に活躍してないんだよねぇ。本当は謎っぽいキュラを通したかったんだけど、このまま相沢ちゃんみたいなキャラになるのはごめんだしぃ」

そう言って喉の奥でくっくっくっ、と笑う尚人を横目に、俺は泉希の影の薄さがここまで知れ渡っていたことに驚いて再び沈黙。
ていうか、メタ発言ダメ。

「とにかく、今日はリベンジと行きましょうや、魔王様!」
「リベンジ……」

いきなり本題に軌道修正する尚人のマイペースさに、呆れつつ、彼の言葉が妙に頭の中で反響する。
脳裏に、成沢 麗華の顔が浮かび上がる。胸の内側から、込みあがってくるそれの正体はわからないけど。

「おぉ? 魔王様もついにやる気出てきたかぁ?」
「はっ。勝手に言ってろ」
「はっはっはっ! それじゃぁ、行きますか」

そう言って、庭園の出口へと向かい歩き始めた尚人の後を、黙ってついていく。
どこに行くのか、とはもう聞かない。
リベンジ……ただその言葉が強く印象に残ってて、それを実行することが今の俺の仕事だ。
やってやろうじゃねぇか。

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