小説『気がついたその時から俺は魔王』
作者:VAN(作者のブログ)

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「……で?」
「な――「メーン!」――ま?」

なにが、なまなんだ。
そんな冗談はさておき。奇声にもにたそれらに耳を塞ぎながら、俺は換気用に作られた床に近い壁の窓からそれらの声の発生源である建物内に目くばせする。

『ヤァーッ!』

俺達がいるのは南庭園からさほど離れていない場所に位置する木造の剣道場。
そう、ここは放課後剣道部の面々が集まって部活動をする場なのだ。そこに見慣れぬ俺と尚人。

『ドウ!!』

なにをしているかと言えば……

『メーン!!』
「……集中して解説もできん」
「魔王様もメタ発言してるじゃ〜ん」

うるさい。
だが、そんな生意気な尚人の声も聞きづらいほど剣道部の生徒たちの声は大きい。
僅かに開けた窓の隙間から道場内を観察するが、誰が誰だかわからんぞ。

「おい。目的はなんだ? 誰を見に来た?」

なるべく声を潜ませながら、俺は尚人に尋ねる。
俺から離れ、別の窓から様子を伺う尚人は、視線をこちらに向けないまま答える。

「なぁにを聞いているの魔王様? 魔王様はなにをするためにここにきたの?」
「い、いや、そりゃぁリベンジのために……」

だから、なぜ剣道場を覗くこととリベンジが関係しているんだよ。
……まさか、剣道技を見て技を盗めとも言うまい。相手は化け物並みの強さを誇る勇者様なのだからな。

「いいから、見てな。俺の調べだと、これから模擬試合が開始する……はず」

最後付け足すな、不安になるだろうが。
そうため息を吐きながら俺は、場内を黙って見つめる。

『――これから、模擬戦を始める。勝負をしたいものは前へ!』

と、俺達の心配も必要なかったようで、顧問と思われる教師の声が場内に響く。一斉に生徒が打ち込みをやめ、狭い場内の中央を空けるように脇に引いていく生徒。当然、窓が設けられている場所にも生徒が座ってくるわけで……これが汗臭いのなんの。
だがしかし、観賞するのに支障はない。だが臭い。
俺がしかめっ面を浮かべながら場内の様子を伺っていると――体格のいい3年生とおぼしき男子生徒が教師に呼ばれ、面を外して中央に移動する。

『誰か相手をするものはいないか!?』

一瞬静寂する場内。まぁ見た目じゃなく実力も相当なものなのだろうな。周りの生徒たちの反応を見ていると、その男がどれだけ強いのかわかるというものだ。
しかし、

「では、私が久しぶりに相手をしましょう」

凛としたそんな声が、場内に響く。一人、周りの生徒と比べて小柄な生徒が面を外して相手の向かい側に移動する。
表情を硬くしたのは、今度は男の方だった。そして、俺の顔も同時に強張る。

「お相手……してくださるでしょう?」

そう言って汗をぬぐい、可憐に微笑むのは、勇者こと成沢 麗華。
俺は窓から顔を離し、尚人に向き直る。

「おい、なんであいつがここにいる? 生徒会役員じゃなかったのか?」

俺の問いかけに、尚人も窓から離れながらニッ、と口元に笑みを浮かべる。

「兼部ってのは自由でしょ。特に、こういう部活動が盛んな学園はなぁ」

いつも通りの口調で尚人は続ける。制服の内ポケットから取り出した写真を俺に見せながら。

「成沢 麗華――生徒会副会長にして剣道部所属の2年生。小学3年生のころから剣道をやっていて、その実力は全国レベル。だけど、公式の大会にはほどんど出ていないらしい。あの勇者様の強さは、ここからきていたってわけだぁ」
「……じゃぁ、別に化けものじみてるってわけでもないわけか」
「そうそう〜。魔王様がただ単に弱いだけぇ」
「…………」

ならお前戦ってみろよ!?
本当にあいつ化け物みたいな動きするんだからな!?
などと言い訳じみた説教をするのはめんどうくさいので、俺はため息を一つ吐いて再び窓の隙間から場内に目をやる。
次の瞬間、

「はぁっ!!」
『ぐっ!?』

目にも留まらぬ速さ――というのはこの事だろう。
一直線に突き出された竹刀は相手の鳩尾をとらえて、その重々しい体を悠々と倒した。
うめき声をあげて仰向けに倒れる男を見下し、ふぅ、と息を吐く麗華。

「もう少しスピードを磨かなければ、せっかくの攻撃も当たりませんよ? あなたの長所であるそれを生かしてください」
『……まいりました』

もうそれは、いろんな意味を含んだまいりましたなんだろうな。
男がそう降参するのを聞いてにっこりとほほ笑み、生徒の輪へと戻っていく麗華。周りの生徒からちやほやされつつ、麗華は姿勢よく正座して、次に始まる試合を見つめていた。

「…………」
「どう? なにかわかるものあった?」
「……別に」

尚人の言葉に、そう吐きすてるように言って俺は立ち上がった。それを見た尚人も、続いて立ち上がる。
そして、また馬鹿にしたような笑みを浮かべてこう言う。

「さぁて、ここで問題。成績優秀、運動神経抜群、生徒会副会長兼実力派の剣道部、生徒には敬われ、人当たりもいい。ついでに容姿端麗スタイル抜群」

はたして最後のは必要だったか?

「さて、魔王様はいったいなにであればこのパーフェクト超人に勝てるでしょうかぁ?」
「…………」
「正解は〜」

答えは、お前の顔を見てればわかる。
にっ、と笑った尚人は勝手にこう答える。

「やっぱバトルしかないっしょ……?」

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