小説『気がついたその時から俺は魔王』
作者:VAN(作者のブログ)

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声のトーンを低くしてそう言い放った尚人は、本気である。
口元は笑っていても、目が笑ってない。本当に、本気なのだ。

「……それを言いたくて俺をここに連れてきたのか?」
「いやぁ。――まぁ、それもあるとしてもいいけど、本当の目的は違うのさぁ」

そう言って肩を竦める尚人に、俺は眉を寄せて首を傾げる。

「一番最初は、俺達が計画を立てて勇者様を誘い出した。『今夜、新しい魔王様が学園に現れる』ってね。2回目は、勇者様からお誘いがあった。けど、3回目は特に戦う理由が思いつかないんだよね〜」
「一番最初と同じように、お前らが誘い出せばいいんじゃないか?」

俺のもっともな質問に、尚人はため息を吐いて首を振る。

「それは、魔王様がまだ謎の存在だった時の話。今は、魔王様の存在はばれてるし、なにより一度勇者様に負けている。これは痛い。いくら俺達が誘っても、勇者様は、あの魔王は危険じゃないから野放しにしておけば大丈夫、と言われたらそこまで」

だから無理なのよぉ、と尚人。
なんだ、つまり俺が悪いとでも言いたいのか? いやていうか言ってるんだよな、これは。
そこで、と尚人は人差し指をたてる。

「今回は少し悪っぽいことしてみようと思う」
「悪っぽいこと?」
「なぁに、魔王様を誘い出した時と同じ手段さ」

そう言って笑う尚人の言葉に、俺は再び首を傾げる。
その直後であった。

「そこにいるのは何者です!」
「っ――!?」

いきなり背後からそんな声が俺達に向けられる。声から判断して女性だ。それに聞いたことがある。
俺がその声の主の姿を確認しようと振り返った瞬間――

「うっ――!?」

そんな呻き声が聞こえたと思った時には、事はすでに終わっていた。
振り返ったそこには、気絶した燕尾服姿の女性が倒れているという奇妙な光景。

「いやぁ、大声で叫ばれちゃ困るんだよね。秘密裏に行わないといけないんだからぁ」

そう言って笑う尚人の手には、拳銃。拳銃……?

「お前、それ……?」
「なぁに、麻酔銃だよ。即効性の高いやつ」

そう言って、尚人は拳銃をしまうのかと思ったが、パン、と拳銃を一叩き。次の瞬間、それは一瞬にして姿を消して、跡には小さな光だけが残っている。

「なっ――!?」

一瞬にして、整理がつかない事ばかり起こったためか、頭の中が混乱している俺をよそに、尚人は俺の脇を通り抜け、倒れ込む女性の傍にしゃがみ込む。

「――成沢 麗華の執事。コイツを人質にとって勇者様をおびき出す」

尚人の提案に、俺はあの日の事を思い出す。
泉希を人質にとられ、夜の学園に呼び出されたあの日の記憶を。
こういう手口で、あいつも人質にとられたのか。本命を釣るための餌として。

「さぁ、魔王様」
「…………」
「リベンジ、開始だぜ」

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