小説『気がついたその時から俺は魔王』
作者:VAN(作者のブログ)

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生徒会・副会長兼勇者こと成沢 麗華を誘い出すため、彼女の執事を連れ去ることに成功した俺たちは、そのまま燕尾服姿の女性を連れて学生寮の俺の部屋に来ていた。ちなみに、執事兼人質を運んでいるのはなぜか俺。尚人は手ぶらで俺は人質を背中に乗せて男子寮まで運搬……本当にこいつ臣下なのだろうか?
それと、なんで俺の部屋に……? 狭い1DKの部屋よりいいところはたくさんあるだろうに。
そんな疑問を呟く前に、俺は部屋に入ると訝しげな表情をある人物に向けた。

「……おい」
「はい、なんでしょう?」
「なんでお前がここにいるんだ?」

俺の問いに、小首を傾げる人物とは、橙色の夕日に照らされる我が魔王軍臣下の愛奈である。
俺は朝ここを出る時に、確かに鍵を閉めていったはずだ。だが、俺達がここに来た時にはすでに鍵は開けられ、リビングでは俺達の事を待っていた愛奈の姿がすでにそこにはあった。

「私は尚人さんに言われた通りにここに来ただけですが?」
「鍵が閉めてあったろ」
「管理人に催眠をかけて開けてもらいました」
「…………」

お、恐ろし過ぎるわ!!
さも当たり前のように催眠を使ってくる愛奈には、これからも警戒しなくてはいけないな。

「とりあえず、さっさと計画進めましょうやぁ。人質も、起きちゃったことだしねぇ」
「ん?」

尚人の言葉に、俺は背中に乗せている人物に目を向ける。低く唸った後に、ゆっくりと目を開けた女性は、半開きの瞳から今の状況を見据える。
と、

「こ、こは……?」

まだ寝起きだというのに思考回路はしっかりとしているらしい。
俺は視線で尚人に確認をとりながら、リビングのベット横に彼女を座らせる。すでに体は拘束しているから、逃げ出す心配はないだろうな。
そんな彼女に尚人は近づきながら、いつもの癪に障る微笑みを浮かべながら状況説明。

「どぉも〜。魔王様の右腕こと、尚人でぇ〜す」

お前はいつから俺の右腕になった。

「魔王……――っ! お前らは!?」

と、ここで意識がハッキリしてきたようで、俺と愛奈の姿を見るなり牙をむき出して身構える。言っても、拘束されているから少々俺達から距離を取るぐらいだが。

「まぁ、落ちつけ落ち着け」
「黙れ! いったい今度はなにを企んで――」
「だぁかぁらぁ〜」

なんとかなだめようとする尚人に向かって怒鳴る女性。
そんな女性の態度に肩を竦めた尚人は、口の端を吊り上げたかと思った瞬間――女性の額に拳銃を押し当てた。

「――それをこれから説明するんだって言ってんのよ。黙っててくんなぁい?」
「っ…………」

普段よりも1オクターブぐらい下げた声色で、尚人はそう女性に言う。
銃口を額に押し当てられている女性は、目を見開き、その顔に動揺を浮かべながら言葉を呑み込んだ。それを見て納得した尚人が、拳銃を当てたまま説明を始める。

「いい? あんたは勇者様を誘き出すための人質だ。うちの魔王様が勇者様とご対面するまではあんたの身をこちらで預からせてもらうっていう魂胆。わかっていただけたかなぁ?」
「…………卑怯者め」

拳銃を押し当てられ、なおも精一杯の抵抗を女性はする。けど、その言葉は俺達にとっては――

「卑怯者? 結構結構! 俺達魔族にとっては褒め言葉だよなぁ、魔王様?」
「……まぁな」

――ということなんだよな。
同意を求められた俺自身は何一つ卑怯なことをやった覚えはないが。
俺は尚人や女性に聞こえないように、傍らに控える愛奈に囁く。

「基本、卑怯なのはお前たちだけだよな」
「その卑怯な臣下を従えるのはあなたですが」
「…………」

返す言葉はないけど俺の身にもなって発言しろやコラ。やっぱこいつがいると安心感があるっていう言葉は撤回だな。

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