小説『気がついたその時から俺は魔王』
作者:VAN(作者のブログ)

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「さぁ、それじゃぁ敵の前で作戦会議だぁー」
「おい……」

パッと拳銃を女性の額から離しながらそう俺達に向き直る尚人。
いや、なんてカミングアウトの激しい組織なんだよ。俺が呆れたように尚人に視線を向けていると、尚人が人差し指を立てながら俺と愛奈に作戦を説明する。

「作戦決行は今までと同じ10時。俺と愛奈が成沢 麗華の動向を探りつつ、『こいつを人質にとった。返してほしくば昨夜と同じ場所にこい』って知らせる」
「その脅しにのってこなかったらどうする?」

俺は、2日前の初戦を思い出して尋ねる。あの日、初めて麗華とこの執事と戦ったけど、傍から見て信頼し合っているとは思えなかったな。
と、尚人がベット横で俺達を睨み付ける女性を指差しながら続ける。

「成沢 麗華は絶対に来るだろう。こいつは、小さい頃から付き人として世話をしてもらっていた大切な執事だしなぁ」
「っ……!」
「そうだろう、高峰 咲楽(たかみね さくら)?」

馬鹿にしたような微笑みは、敵にも有効なようで。笑みを向けられた女性――高峰はその言動に、億目もなく憎悪の表情を見せる。

「お前に、私のなにがわかる……?」
「なぁんでもわかるよ? 試しに出生から今までに至るまでの過去でも話してあげようか?」
「――っ!」

と、ここで高峰は焦りの表情を浮かべた。その表情に満足したのか、尚人がニッと口元を歪める。
なんて意地の悪いやつ……

「――尚人さん。作戦に関係のない情報はいいので、早急に内容を話してください」
「あぁ〜はいはい」

愛奈の一言に、尚人は素直に頷いて、再び俺達に向き直る。が、俺は横目に、高峰が安堵の表情を浮かべているのを見逃さなかった。よほど、知られたくない過去があるのか……

「――俺はこれから勇者様に例の情報をなんとか知らせる。その後は、研究室でいつも通り魔王様やら愛奈の行動を見守ってるよぉ〜」
「またお前だけ高みの見物か。その奇妙な能力で助けてもらいたいもんだ」
「人の能力を奇妙とか言わないでよぉ〜」

そう言って拳銃を見せびらかすようにプラプラと回す尚人。
今日初めて、尚人の能力らしきものを目の当たりにした俺。一瞬にして拳銃を取り出し、また一瞬にして拳銃を消すその能力は、いまだ見当がつかない。よって奇妙な能力だと。
肩を竦める尚人は、次に愛奈に指示を出す。

「愛奈にはこの後、勇者様の監視。しっかり情報を受け取ったかどうか、念のためにちゃんと指定場所に来るかどうかの確認。これはばれないようにやってくれよぉ〜?」
「了解しました」

難なく頷く愛奈に頷き返しながら、最後に俺の行動の手順を説明を尚人は始める。

「魔王様は、俺達の連絡があるまでここで待機。一応人質の監視と、夜指定の場所まで運んできてくれぇ」
「また力仕事か……」

愚痴をこぼす俺に対して、文句言わねぇの、と釘を刺して説明を続ける尚人。

「あとはいつも通り。10時に勇者と対面。能力解放のガチンコバトル! 期待してるよぉ〜」
「…………」

尚人の言葉に、俺は昨夜の勝負について眉を寄せて顔を俯かせる。
昨日、俺は麗華との戦いに負けた。
時間があれば、能力に制限がなければ……そんな言い訳は通用しないのが、本気の勝負。
もう一度戦って、勝算はあるのだろうか?
俺はうなだれるようにして、そのことを考える。
そんな俺をよそに、尚人は手をパンと鳴らしてにっこりほほ笑み、

「それじゃぁ、作戦開始だぁ! 両人、しくじるなよぉ?」

そう号令をかけた。尚人の言葉に、俺と愛奈はとりあえず頷き、まずは勇者に人質について伝える役割を果たすべく尚人は部屋を出て行った。

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