一瞬静まり返る部屋の中で、俺は深くため息を吐き、再び今夜の戦いについて頭を悩ませる。と、
「天月さん……」
「ん?」
終始、無駄なことを口にしなかった愛奈が、そう静寂を破って俺に声をかけてきた。
「どうした?」
「もしかして、昨夜の戦いで自信喪失なされているのではないかと……少し思っただけです」
「うっ……」
まんま心を読まれた……
そんなに顔に出ていただろうか、と俺は手で顔を覆う。
すると、ベット横で今まで沈黙していた高峰が俺に向かってふん、と鼻を鳴らした。
「魔王ともあろう者が、たった一度の敗北で弱気になっているとは……滑稽ですね」
「っ……勇者だってあの日、しっぽ巻いて逃げたじゃねぇか」
核心を突かれた俺は、身動きがとれないくせに偉そうな高峰にそう皮肉を告げる。
と、今度は彼女がむっ、と眉を寄せる。
「麗華お嬢様は弱腰になったりいたしません。大体、あの時はお嬢様の身の安全を確保するために、私が独断で行ったのです」
「……そして、お仕置きを受けた、と」
「うっ――!?」
唐突に口を開いた愛奈のそんな言葉に、今度は高峰がわかりやすいぐらい顔を青くした。
「お仕置き……?」
「ど、どこでその情報を……?」
だが、俺はそんな情報聞いたことない。
しかし、冷や汗を流しながら愛奈に真意を尋ねる高峰。そんな問いに、愛奈はメガネの中央を人差し指で抑えながら答える。
「私は魔王様を支える臣下……魔王様が必要とされる情報であれば、どんな情報でも――」
「私のお仕置きが必要となる状況ってなんですか!? ま、まさか……!?」
顔を真っ赤にした高峰は、俺から距離をとるためにリビングを這って、離れた場所から軽蔑した目を俺に向ける。
「おい、愛奈。俺は一言でも必要だと言った覚えはないぞ」
「はい。私も言われた覚えはありません。ただのきまぐれです」
「お前の気まぐれのせいで、俺は今、人質に変態扱いをされている」
いやまじで。高峰の俺を見る目が本当に厳しい。
ってか、お前が顔を真っ赤にするほどのお仕置きってなんなんだよ。逆に気になるじぇねぇか。
などと思っていると、俺の心を見透かしたようにコホンと、愛奈が俺に向かって咳払い。
「敵のより細かい情報を持っていれば、戦略は間違いなく有利に進むはずです」
「ですから、私のお仕置きってなにか必要になるんですか!?」
「たとえば、今のように冷静さを欠くために……」
「っ――!」
「ふむ……なるほどな」
確かに効果てき面。
2日前、用意周到な作戦を駆使し愛奈を苦戦に陥れた張本人が、今や自分の情報を暴露されて顔を真っ赤にするただの少女。
「おもしろい。愛奈、お仕置きの内容とやらを教えてくれ」
「了解しました」
「やっ――!?」
愛奈は制服のポケットから携帯を取り出し、何度かボタンを押した後に俺の指示通りに高峰が受けたお仕置きとやらを話し始めた。
「先ほど少し話に出ました、独断で勇者を連れて逃げたという件。この時、勇者に受けたお仕置きは――」
「や、やめろ! それ以上言うな!!」
必死になって愛奈の発言を止めようとする高峰だが、なにせ拘束されているから這うことしかできない。
それを見計らうように、愛奈はメガネの奥でキラリと目を光らせた。