小説『気がついたその時から俺は魔王』
作者:VAN(作者のブログ)

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「――自らの主人である麗華の前で、今まで好きになった異性の名前を3時間以上言わされ続けた……」
「はぁ?」

愛奈の言葉に、俺は呆れたような声を上げる。
なんだそのお仕置きにならぬお仕置きは……と、思っていたのだが。

「いやぁーーー! やめてください!!」

顔を真っ赤にし、床を転げまわりながら身もだえする高峰。

「どうですか? 先日、あなたが言った男子生徒の名前をもう一度ここで復唱しても構いませんよ?」
「お願いです! やめてーーっ!?」

再び悶える高峰。勝ち誇った笑みを浮かべる愛奈。
目を点にしてただその光景を見つめる俺。

「……なにやってんのお前ら?」

なに、ネタなの? ボケてるの?
と、言いたかったのだが。
俺の発した言葉に、真剣な顔で俺へと目を向ける愛奈と高峰。

「な、なにを言っているのですか天月さん……?」
「は? いや、だって好きな人暴露しただけだろ? それぐらい――」
「「それぐらい……!?」」

その言葉を聞いた二人は、何気なく言った俺に向かってすごい形相で睨んできた。
高峰はその表情に怒りを浮かべ、愛奈に至っては俺を軽蔑するような目を向けた。

「あなた! 私の純情な思い出を侮辱する気ですか!?」
「い、いやそう言うわけじゃ――」
「天月さん……私はあなたを見損ないました。なぜ、もっと人の気持ちを理解してくれないのですか……っ?」

そう言って俺との距離を詰めてくる愛奈。
いや、お前は、人質をとって人の気持ちを逆なでするようなやつだろうが。
てかお前ら2人とも何気、乙女だな。

「だ、だいたい、そんなの昔のことだろ? 今更暴露したって――」
「じゃぁ、あなたはできるっていうのですか!?」
「教えてください。これはお仕置きとさせていただきます」

なんか意思の疎通ができちゃってるよ、この二人。
俺は、詰め寄る二人から視線を外しながら、頭をかく。

「……いないんだよな」
「「……は?」」

あぁ、まったく。
何度かこういうパターンはあったけど、みんな同じ顔するんだよなぁ。

「だから、好きになったやつなんて、生まれてこの方、いないんだよ」
「…………」

その顔、信じてないな。俺はため息一つ。
と、それを口火に再び2人が怒涛のごとく口を開く。

「いないってことあるわけないじゃないですか!?」
「天月さんらしくありませんね。嘘をつくなんて」
「嘘じゃない。実際にいないもんはいないんだ」

しばらく、俺と愛奈と人質である高峰は、嘘だ、嘘でない、などと無駄な口論を繰り返す。
断固揺るがない二人に、痺れを切らした俺は最近知った自分でも驚きの事実を引っ張り出す。

「愛奈、お前も聞いてたろ? 俺の宝石について」
「聞いていましたが、それがどうしたのですか?」

話を逸らすな、とでも言いたげな愛奈の視線に肩を竦めながら、俺は首からぶら下げているネックレスを取り、掌に置く。

「こいつは、俺の興奮とか抑制する役割があるだろ? 俺にはわからないけど、特定の相手を好きになると心拍数が上がったりする。当然、血にも影響がでるわけだ。つまり、相手に惚れるっていう感情も、俺は抑制されてたらしい」

Dr.サンから詳しく聞いてないから勘だけどな、と付け加えると、愛奈は納得したように押し黙る。高峰もまたしかり。
まぁ、今までこの宝石が俺の感情を抑制するものだってわからなかったから、俺は人を好きになることはないんだなぁ、ぐらいにしか思ってなかったけど。
と、俺の解説に納得してくれたと思われた愛奈が唐突に、

「相澤さんは……どうなのですか?」
「ん、なんでここで泉希なんだ?」

そう尋ねてきた愛奈の言葉に首を傾げる俺は尋ね返す。すると、愛奈は困ったように顔を伏せる。いや、困ってるのはこっちなんだが……
しばらく静寂が部屋を包み、どうしたものか、と俺が頭を抱えた直後であった。

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