小説『気がついたその時から俺は魔王』
作者:VAN(作者のブログ)

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 今日も何事もなく平和だったのに……俺は文句を吐き捨てるように言いながら、全力で学園に向かっていた。
「はぁ……はぁ……」
息を切らして走る俺の右手に握られた携帯。その画面には、両手足と口を縛られ、首に鋭利な刃物を突き付けられた泉希の写真が写っていた。
 30分ぐらい前のことだ。俺がベットの上でくつろいでいたら携帯が着信音を鳴らしながらメールを受信した。何気なく開いた携帯の画面には、先ほど説明したとおりの写真が表示されていた。目を見開いてその画面を凝視すると同時に、嫌な汗が背中からあふれるように滲み出てきた。

「な、なんだよコレ……!?」

震える声で俺は、写真と一緒に載っていた本文を読んだ。

『我々に従わなければ、彼女が死ぬ。 平華学園の屋上に来い』

「ふざけやがって……!」

メールアドレスは泉希から。冗談やドッキリ、なんて愉快な話の可能性もあるが……嫌な予感が全身から鳥肌となって表れる。そんなわけで……

「はぁ……はぁ……」

俺は平華学園まで来ていた。
まさか1日に2度もこの学園に来ることになるなんて思わなかった。
なにが平凡にこそ華がある、だ。平凡な日常に、こんなこと起きねぇよ、超展開すぎるだろ、と悪態をつきながら俺は屋上へと続く階段を駆け上がっていく。
興味ないとか、やる気が出ないとか、だるい、とか……そんなつまんねぇことばっか言ってた俺の傍にはいつも、泉希がいてくれた。万が一泉希の身になにかあったら……

「絶対ぇ……許さねぇからな……っ!」

強い怒りを心の奥底で膨らませながら、俺は屋上の扉を勢いよく開けた。
今まで空を覆っていた雲が晴れ、月光が屋上を照らす中で、俺は泉希と、その傍にいる人物の姿を見た。泉希は写真通り身動きの取れない格好で気絶し、そしてもう一方は、ただ月を見つめている。

「はぁ……はぁ……」

息を荒げ、目を見開き、その人物をハッキリ黙視する。
遠山 愛奈――放課後見た彼女の姿が、そこにはあった。

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