小説『気がついたその時から俺は魔王』
作者:VAN(作者のブログ)

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――ガチャリ……

「「「え……?」」」

俺の背後で開かれた扉。
唐突なそれに、俺達は揃って素っ頓狂な声を上げながらその動作を一時的に止める。

「……静かに」

そう言って、扉から姿を現したのは――

「――でなければ、悪夢を見てもらいます」

――眼鏡を外した、愛奈。そんな彼女の姿がそこにはあった。

「っ――!」

なぜ、このタイミングで出て来たのかとか、早く部屋の中に戻れとか、そんなことを言う前に、俺は反射的に目を隠した。

「あ、愛奈ちゃん!?」
「なぜ、貴女がここに!?」

思わぬ人物が出てきたことにより混乱した二人が、声を荒げる。
その言動にため息を吐いた愛奈が、静かに口を開いた。

「お静かに、と言ったはずですが?」
「「――っ!」」

封じた視界の外で、二人が息を呑むのを感じた。
次の瞬間――

「ワタクシハーワタクシハートリニナルトリニナル」
「……は?」
「ワタクシハーワタクシハーチョウチョチョウチョ。てふてふてふてふ」

いきなりわけのわからんことを片言で喋り始めた二人。
俺は気になって目を開き、二人の様子を見つめた。
と、目を虚ろにして、何度も同じことを言っている二人は、回れ右をして、部屋とは反対側の壁――正確にはそこに壁はなく、開けている部分――を見つめていた。
なにをしているんだ、と俺が首を傾げた直後の出来事である。

「「アイキャンフラーイ!!」」

それは、とても雄々しくて。
それは、とても優雅で。
それは、とても清々しくて。
そして、とても意味不明な光景だった。

「――はぁ!?」

数秒の対空のあと、当然のように落っこちていった二人を見送った俺は、壁に身を乗りだして二人の様子を確認する。
見ると、落下地点に丁度土砂を積んだトラックが留まっており、そこに頭から突っ込んだ状態の二人が遠巻きから見えた。そんな二人を積んだトラックは、何事もなかったようにその場を去っていく。

「安心してください」

戸惑う俺にそう言う愛奈に振り返りながら、俺は首を傾げる。

「……いったい、なにをした?」
「催眠をかけました。伊坂さんには鳥に、荒川さんには蝶々になるように」

眼鏡をかけ直した愛奈がそう冷静に説明する。
やっぱり、眼鏡を外して俺達の、和えに現われたのはそのためか。

「やりすぎじゃないか?」
「天月さんに任せていたら、縛り上げている人質を発見されかねなかったので」
「それはどうも……」

おかげで肝を冷やしたぜ、ったく。
俺がため息を吐いていると、愛奈はそれと、と付け足して続ける。

「尚人さんから作戦開始の合図をいただきましたので、今から麗華の監視に入ります」

急に真面目に――言うならば仕事のスイッチが入ったかのように愛奈が真剣な口調で俺にそう伝える。

「……任せる」
「了解しました。天月さんも……」

そこまで言って、愛奈は一度言葉を区切る。
そして、歩き出した愛奈は通り過ぎる直前に一言。

「……がんばってください」
「あぁ、ありがとうな」

その言葉を最後に、愛奈は男子寮を後にした。
期待……してくれたんだよな?
そう思うと、自然と笑いがこみあげてくる。
臣下の期待には、応えなくちゃな。

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