小説『気がついたその時から俺は魔王』
作者:VAN(作者のブログ)

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「変態同士の会話は終わりましたか?」
「…………」

部屋に戻ると、身動きが取れないくせに偉そうな人質がそうリビングで出迎えた。
一悶着あってから、こいつの態度がでかくなってる気がする。

「待て。あいつらが変態なのはわかっているが、俺は違う」
「嘘です。私のお仕置きを臣下から聞くなんて変態のやることです」

先ほどのことを地味に根に持っている様子の高峰
だからそのことは誤解だと何度いえばわかるのだこのダメ執事は……

「さて……」

ひとしきりため息を吐いたところで、俺は今晩の事について考える。
成沢 麗華。つい先日知り合ったばかりなのに、俺の宿敵と化した勇者様。
今のところ、2戦中1勝1敗。つまり互角。
だが、昨日全力で戦ったはずの俺は、勇者に負けた。それが、核心であり、俺を不安へと駆り立てるものだ。

「……」
「そういえば、先ほどあの臣下が申していましたね。昨夜の戦いで自信を無くしていると」
「っ――」

このタイミングでその話題を出すかね。
俺は高峰の言葉に、ただ黙りこくる。それぐらいしかできないのだ。図星を突かれて、悔しくもあるしな。

「今夜もお嬢様と戦う様ですが、無駄ですよ。お嬢様には勝てません」
「…………」

そうかもしれない。先ほども言った通り、昨日の戦いは俺の全力だ。
それが麗華の力に及ばないなら、今日戦ったって同じ結果となるはず。

「し、しかし、魔族とは度胸がないですね」
「…………」

そうかもしれないな。
麗華のような度胸、俺にはないしな。
俺は一人、高峰の言葉に不安を募らせる。と――

「……あ、あの!」
「あ?」

そんな俺に向かって、高峰がそう唐突に声を張った。
なんなんだ、と振り返ると、唇を噛みしめ、恨めしそうに高峰が俺を睨んできている。

「なんだよ?」
「……す、」
「す?」

繰り返す俺に対して、顔をカッと赤くする高峰。

「――少しくらい、反応してください……」
「…………あ?」

高峰が、俺から視線を外し、拗ねたようにそう小さく呟いた。
何言ってんだこいつ……と思ったら、素っ頓狂な声を上げてしまった俺。
すると、高峰はさらに顔を紅潮させて俺に噛みかかってくる。

「ひ、一人で喋っていては、馬鹿みたいじゃないですか……! そ、その……こういう状況ですし、話相手が欲し……くないわけでも……」

拘束された状態でもじもじとする高峰を見て、俺はしばし言葉を失う。
引いているわけではない。ただ黙ってこういうやつのことをなんと言うんだったかを考えていた。そして、答えは出た。

「お前、かまってちゃんか?」
「っ!?」

言った言葉に、瞬間的に目を見開き俺へと目を向けてくる高峰。
ぷるぷると体を震わせて、あわわと口を開いた。

「わ、私はかまってちゃんじゃありません! べ、別に一人でいても寂しいと思ったりしませんし、どSなお嬢様の相手を日頃しているからといって、急になにもされなくなったこの状況に物足りなさを感じているわけでもありません!!」

丁寧な説明をありがとう。
だが、急に騒ぎだした高峰の声はなかなか大きく、変態隣人二人でなくとも気になってこっちに様子を伺いにきかねんぞ。

「あぁー、わかったわかった。構ってやるから少し静かにしてろ」
「で、ですから――!」

俺の言葉を否定しようと身を乗り出す高峰。
そんな高峰の言葉を遮るように、俺は彼女の前にしゃがみこみ、

「よしよ〜し」
「っ――!?」

頭に手を置いてやった。そのまま頭の上をポンポンと軽く叩く。
瞬間――黙り込むと同時に体を強張らせる高峰。正直かまってやると言っても、なにをしていいかわからなかったから適当にこうしているが、いいのだろうか?

「う、うっ……こ、子供扱いは……やめ……!」

嬉しくはなさそうだな。強張りはなくなったものの、顔を真っ赤にして首を振っている様子を見ると。
俺はポンポンからナデナデへと手の動きを移行する。すると、再びうーうーと唸りながら視線を泳がせる高峰は、なんかおもしろかった。
一通り高峰の観察をしたところで、俺は手を彼女の頭に置いたまま目を伏せる。

「お前の言った通りだよ」
「ふぇ? ――じゃなくて、」

いきなり放った俺の言葉に、奇妙な声を上げた高峰は、彼女自身がそんな声を出してしまったことに驚き、ぶんぶんと首を振って気を引き締めたようだ。
俺も、彼女の頭から手を放して続ける。

「いきなりなにを……?」
「……無駄、なんじゃないかって。俺が今やってること」
「…………」

顔を伏せて、俺は語る。

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