小説『気がついたその時から俺は魔王』
作者:VAN(作者のブログ)

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平陽学園、正面玄関前。
剣道部で汗を流し、シャワールームで体を洗った後に生徒会活動を行う。どちらも素晴らしい結果を残す成沢 麗華の放課後の行動は以上の通りだ。
そして先ほど生徒会室を出た成沢 麗華は帰宅するためにここに来る。
私――遠山 愛奈は先回りをしてここで彼女の動向を探っている。

「…………」

未だ、成沢 麗華が高峰 咲楽の居場所を掴んでいないのは動向を探っていればわかる。もしすでにわかっているのだとしたら、彼女は今ここでゆっくりしているわけがない。
彼女と彼女の執事との絆は非常に厚く、また非常に硬い。それは尚人さんから頂いた情報から分析できる。
それゆえに――

(――怒りに身を任せて、悲惨な結果にならなければいいのですが……)

勇者・麗華の特徴は攻めと受け身の絶妙なバランス。
一日目の戦いでは、弱輩と見ていた天月さんに対して猛攻をしかけている。魔王様が戦闘に関してはド素人であった、という点を除いても彼女の攻撃は凄まじいものだった。それは自分が身をもって経験している。
しかし、2日目の戦いでは一転して受けの姿勢を貫いている。相手の攻撃に合わせて回避、防御を駆使し、相手の体力を極力削り、そして隙を見せたところで攻める。
身体能力も高く、冷静な判断力があるうちでは、あちらから隙を見せることはまずないだろう。
さすが勇者……だが、その判断力が欠かれた場合にはどうなるのだろう?
一日目、能力を解放した天月さんの動きにあの時はついてこれなかった。豹変する天月さんに戸惑い、集中力が切れたためだとDr.サンは分析する。
今回の作戦でも、麗華の冷静さを欠如するものがある。そうなれば天月さんは簡単に勝利することができるだろう。
……しかし、それでは意味がないのだ。これからの計画にも支障がでる。
こればかりは勇者に期待するしかない。

「…………」

玄関内の下駄箱前に姿を現した麗華を横目で見据えて、私はそう胸の内でささやかな望みを託す。

「……っ?」

と、遠巻きに様子を伺っていると、成沢 麗華が携帯画面を見つめて目を見開いているように見える。その表情は明らかに動揺しているのが目に見てわかる。
つまり、尚人さんの例の情報の渡し方はまたメールだったというわけだ。なんとも、ワンパターンな人である。

「っ……許しませんわ……!」

怒りを滲ませたそんな声に、私は警戒する。そろそろ彼女も動くだろう。
私は、物陰に身を隠す。と同時に、成沢 麗華は急ぎ足で学園を出ていった。そんな彼女の姿が完全に消えた後に、私は携帯を取り出す。
とりあえずは、私の作戦は終わりました。あとは天月さんにこのことを知らせ、夜の準備を――

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