小説『気がついたその時から俺は魔王』
作者:VAN(作者のブログ)

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あー。本当にめんどうなことになっちまった……
どうも、他称魔王の天月 怜です。
夕刻、いきなり催眠ガスなるものが仕込んであったトラップにまんまとかかってしまった俺と人質一名は、ただいま、陽がとうに沈み、電灯によって明るくなった自室にて身動きが取れない状態にある。
なぜかって? それはトラップを投げつけた張本人らに聞いてくれ。

「しばらく大人しくするんだな」

そう言って俺と高峰の手を拘束した謎の男達。平陽の制服を着たそいつらにいきなり襲撃されたわけなんだが……いったい目的はなんなのやら。

「何をするんですか!? 早く離しなさい! 今すぐ離しなさい!」
「ったく、うるさいやつだ……」


新しい拘束を施された高峰は、俺達の時同様、口やかましく相手に噛みかかる。

「本当。ちょっとうるさいぞ」
「なんであなたが言うんですか!?」

並べて座らされたため、となりでそう叫ばれると耳が痛いんだよ……ったく。
俺は、自分の部屋を我が物顔で占領する男達を見据える。人数は3人。顔も名前も知らないやつら。だが、みな一様に普通の生徒とは違う雰囲気を持っていた。
強いて言うなら、尚人とか愛奈……あいつらと雰囲気的には似ているな。

「くっ……なんなのでしょう、あの方たちは」
「今それを考えていたところだ」

隣で、一応静かになった高峰が声を潜ませて尋ねてくる。俺は、男達から今度は自分の部屋の状態の確認。鍵はいつのまにか玄関も窓もしっかりと閉められていた。ご丁寧にカーテンまで。

「目的はいったいなんなんでしょう?」
「さぁな。直接聞いてみたらどうだ?」
「目的はなんですか? 答えてください」
「あぁん?」

本当に聞いたよ、こいつ。
俺がため息を吐いていると、高峰は構わずまっすぐ男らの内の一人を見つめる。そんな質問をされた男は、ニッ、と何か含みのある笑みを浮かべた。

「お前は黙ってここにいればいいんだよ」
「っ――どういう意味ですか!」
「だから、それはお前が知らなくてもいいんだよ」

そう言って、他の男達と他愛のない話を始める男。もうこちらに用はないと言わんばかりだな。

「うぅ……なんなんですか、いったい」
「……どう思う、お前?」
「はい?」

唐突に、イライラという擬音語がぴったり合いそうな状態の高峰に俺はそう尋ねてみた。
もちろん、質問の内容がわからない高峰は首を傾げる。

「今のあいつらの反応だよ」
「……むかつきます」

いや、そうじゃなくてだな。
俺は談笑する男達に気づかれないように、高峰に耳打ちする。

「あいつらさっき、『お前は黙っていればいい』って、お前に言ったよな」
「はい。ですから、むかつくのです」
「そうか。俺は別にむかつかない」
「…………」

高峰の言葉にそう返答した俺。そんな俺に向かって、何を言っているのだ、と言わんばかりの視線を高峰が俺に向けてくる。

「いいか、あいつらはお前に向かってだけ、黙ってろ、って言ったんだ」
「それは、私が質問したからでは……」
「それもある。けど、俺のことは全く眼中にない、っても取れる」

なるほど、と頷く高峰に俺はさらに続ける。

「つまり、俺は巻き込まれたに過ぎない。目的はお前か、お前の周辺のやつら」
「私……ですか?」

そう言って目を閉じ、考え込む高峰。俺はふぅ、と息を吐いて首を回す。
ここまで考えたのはいいんだが、あともう一歩考えるのが面倒になってきた。あとは、高峰に任せれば、わかるだろうしな。
そう思い投げ出した、数十秒後。

「―――っ!」

早いな。何か閃いたようで、高峰はいきなり目を見開く。

「なにかわかったか?」
「――お嬢様……麗華お嬢様です……」
「麗華……?」

どういう意味だ、と問う前に高峰が俺に向き直って、説明を始める。

「あの方達の狙いはおそらく麗華お嬢様です。間違いありません!」
「なるほど。それで、根拠は?」

尋ねた俺に、高峰は自信を持ってこう切り出した。

「勘です!」
「…………」

こいつ実は馬鹿なんじゃねぇの?

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