小説『気がついたその時から俺は魔王』
作者:VAN(作者のブログ)

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「お前、本気で言ってるのか……?」
「で、ですが、他に可能性はありません! 私はこうして捕まっているだけですし、実害はありません。ですが、私の身内となれば数は限られます。特に関係が深いのは、家族か麗華お嬢様か……あの方達は平陽の生徒ですし、可能性が高いのは麗華お嬢様です」
「なんだ、ちゃんと根拠があるじゃないか……」

確率論であるから、ちゃんとした根拠ではないがな。
声を荒げる高峰を制しながら、俺は再び思考開始。もしも麗華が狙いだとしたら、こいつらの正体は……?
それを考えようとした直前、部屋同様、俺達を照らしていた電灯の光が陰る。
顔を上げれば、男達が俺達の前に――次の瞬間。

「ふんっ!」
「っ――悪い!」
「きゃっ!?」

俺達の頭上から振り下ろされる鋭利な何か。それの存在にいち早く気づき、隣に座る高峰を思い切り蹴り飛ばし、自らもその反動で後ろに転がった。
直後、先ほどまで俺達がいた場所に振り下ろされる――大剣。床を抉り、フローリングである床の木片を無造作に飛ばした。
ベランダ側に転がり、体勢を立て直す俺はそれぞれに武器を持つ男達を見据える。
蹴り飛ばされた高峰も、なんとか起き上がり、男達を睨み付けた。

「な、なにを!?」
「……いきなり、物騒だな。お前ら、血の気は多い方か?」
「ふん……。何度言っても口を閉じんお前たちにはこっちの方が効果的だろう」

つまり、雑談している振りして、全部聞いていたと。

「これ以上は何も話すな。ただ黙っていればそれでいいんだよ」

そう言って、金属バットを肩に担ぐ男。武器を所持――先ほど俺達に攻撃してきたのは大剣を持つ冷酷な男。バットを持つのは一見スポーツマンのような男。そして、もう一人は……あれは、本か? とにかく、眼鏡をつけた男は本を所持していた。
まぁ、なんにせよ、あの絶妙なタイミングで会話を中断させられたってことは――

「では、私たちの考えは的を得ている、ということですね」
「あぁ。そういうことだろうな」

すると、各々の面持ちが微かに渋くなる。図星、だな。
大剣を手にした男は、俺達の言葉に、ふぅ、と息を吐き、口を開く。

「……ちっ。手荒な真似はしたくなかったんだが、この際だ」
「あぁ、仕方ない仕方ない」
「ですね」

これは、いささかまずいパターンである。
冷や汗が、いやそれよりももっと嫌な汗が、背中からにじみ出る。
3人の内2人が俺に、もう一人が高峰に狙いを定める。本当に、まずい。

「安心しな。記憶改変の手段はこっちにもある。お前らが例え死んでも、みんな綺麗さっぱり忘れるようにしてやるからよ」

はっはっは、恐ろしいこというな、こいつ。それは、存在を消すってことじゃないか。
つまり、本気であると。
安心して、俺達を殺せると。
そういう意味か。

「なに、すぐに済む。苦しいのは、お互い嫌だからな」

そう言って、大剣を振り上げ、一気に俺の頭上へと振り下ろす。
普通なら、その一撃を避けれたかもしれない。しかし、俺の注意は大剣ではなく、反対側の高峰に向かっていた。
彼女にもまた、金属バットを手にした男が今まさに振り下ろさんとしていた。

「それでは、な」

そのせいで、俺は逃げ遅れた。気づけば、俺、高峰に向かって振りおろされた大剣は、バットは――

「え……?」
「なに――?」

――消えた。
驚きを露わにしたのは俺達だけじゃない。男達もそうだ。

「なにが……?」

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