いきなり武器が手元から消えたのだ。
いや、正確には違う。
移動――そう、大剣、バット、本、すべてが移動していた。それは、先ほどまで男達が談笑していた部屋の隅へ。
なぜ、その場の全員がそう思っていた。
「間に合った……」
だが、その疑問も、何もない空間から響くそんな声によってどこかに吹き飛んでしまった。
声が聞こえた――そう思った直後、
「ぐあっ!?」
ドスッ、と鈍い音が聞こえると同時に、高峰に襲いかかっていた男、そして本を持っていた男が同時に倒れこんだ。
それに気付いた俺と目の前の男が視線をそちらに移す。と、
「うっ!?」
その直後に、目の前も男も倒れこんだ。俺はその一歩前にその場をどけて、男の下敷きにならずに済んだ。
そして、改めて見る。
「…………」
そこにいたのは、我が平陽学園の女子生徒用の制服に身を包む……仮面をつけた女性だった。手には警棒……のようなものが握られているところを見ると、あれで男達の不意を突き、倒したのだろう。
しかし、そんな彼女(?)はいったいどこから姿を現したのだ?
女子生徒に注意を払ったまま、俺は高峰に視線を向ける。俺は男の体が邪魔でよく見えなかったが、高峰の位置からならもしかしたら――俺がそんな疑問を視線で尋ねると、
「い、いきなり……現れたんです」
そう、高峰が口を開いた。
そんな中で、女子生徒はただ男達の体をまさぐっていた。何か探しているのだろう。
それよりも、いきなり現われた、だと?
「どういうことだよ……?」
「こ、言葉通りです……いきなり現われて、この人たちを――」
倒した、と。
そんなバカな話はないだろう。
瞬間移動でも使えない限り……って、まさか?
「――瞬間移動じゃないよ。ただ、戻ってきただけ」
気を使おうとしないそんな口調で、女子生徒は言った。
そんな女子生徒の言葉に、首を傾げる高峰。
どういう意味だか、わからないからだろう……俺もそうだ。
「意味、わからないぞ……」
だが、高峰とは違う理由で俺は驚いている。
声が震えているのが自分でもわかる。言葉を発した女子生徒を見つめながら。
と、ある一人の男の体から、どこかに消えていた俺の携帯を見つけ出した女子生徒。それを手に、俺に近寄ってくる。
女子としては平均的な身長。仮面からはみ出す赤茶けた髪の毛。気を使わないちょっと明るめの口調、そして声。すべてに、見覚えがあるし、聞き覚えがある。
「急ごう。このままだと、今日の計画が台無しだよ」
仮面越しに聞こえたその声には、やはり聴き覚えがある。女子生徒は、俺の拘束をほどき、自由になったその手に携帯を手渡してきた。
俺は、そんな女子生徒に目を奪われたまま、なんとか口を開き、詰まった言葉を発す。
「お、前……」
「……勇者との約束まで、」
女子生徒は、ゆっくりとした動作で仮面を外す。
そして、俺の目の前でその素顔を露わにした。
この目で見るまで、信じたくはなかった。
なぜなら、俺の目の前にいるこいつは、こんな非日常的な場所に、いちゃいけない人間だからだ。
「――遅刻しちゃ、ダメだよ……怜君」
「…………泉希」
ザ・ふつうよ。
「なんで、ここにいんだよ……?」
それは、いつだかしたことがあるような質問だ。
だけど、今回ばっかりは教えてもらうぞ。
相澤 泉希……俺の、唯一の幼馴染よ。