小説『気がついたその時から俺は魔王』
作者:VAN(作者のブログ)

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『――くん――りょ――怜君!』
『ぁ……?』

そいつは、俺にとって唯一の幼馴染。

『もう、駄目だよ。人はね、寝すぎると……あれ、どうなるんだっけ?』
『少なくともお前みたいな記憶力の乏しい人間にはならん。安心しろ』
『あーそっか……って、遠まわしに私のこと馬鹿にするのやめてよ!』

ただただ普通のやつで、笑って泣いて怒って、ただ人並みよりもおせっかいで優しいやつ。

『……よっ、お馬鹿さん』
『直球っ!?』

そいつは、そんなやつだった。
相澤 泉希――16歳。身長152センチ、体重……

「ちょっと怜君!! なんで語りで私の個人情報流すの!?」
「いや、シリアスな雰囲気に耐えられない人もいるだろうと……」
「そこは通していこうよ! ていうか、何で私の身長知ってるの!?」

隙のないツッコミにある意味関心する。まさか語りにまで飛び込んでくるとは。
さて、状況説明だ。拘束されていた俺と高峰を助けたのは、俺の幼馴染である泉希。そんな彼女が倒した男達を拘束し、今に至る……つまりは、俺がボケていたところだったのだ。
そういうわけで、なぜ泉希がここに来たのか、その他もろもろの疑問は今から消火していくところである。

「――で? なんでここにいる?」
「……相変わらず直球だね、怜君は」
「お前はすぐ誤魔化すからな。今の内に、聞いておくだけだ」

俺はそう言って、泉希に対峙する。
そんな俺の言葉に、さっきまでツッコミをしてテンションの上がっていた泉希の明るさは消え、少し陰ったような表情をする。

「……うん、わかった。作戦のこともあるから、手短にね」

そう言って顔を上げ、俺のことをまっすぐに見つめる。いいぞ、しっかり聞いてやろうじゃないか。
大きく深呼吸をした泉希。そして、ふっ、と息を吐いてから俺の目をまっすぐに見つめてきた。

「私は、尚人さんから指示されてここに来たの」
「尚人……?」
「うん。簡単に私の役割を言うとね――」

そこで言葉を区切った泉希は、人差し指を俺へと向ける。

「――魔王の末裔である怜君の監視だよ」
「っ――」

監視……それってつまり。

「お前、俺のストーカー……だったの?」
「違うよ!? なんでそうなっちゃうのかな!?」

冗談だ、と俺が一言付け足して、話を戻す。

「今日は、状況が悪化しちゃったから特別。怜君の前で裏の私を見せる許可がでたの」
「裏、ねぇ……」

それはつまり、魔王モードの俺と同じようなことか。
だが、つまりそれって……
俺の怪訝そうな表情に気づいた泉希が、察したように口を開く。

「――私も、魔族だよ。初代魔王、直属の諜報員……の末裔だけどね」
「諜報員……」

諜報員……って、確かスパイみたいなもんだよ、な?
いったい何の、っていうのは愚問か。

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