「……もういい、わかった」
「――え?」
と、言った俺の言葉に素っ頓狂な、というか驚きの声を上げた泉希が、目を丸くして俺を見上げる。
「今まで信じられないようなことばっかりだったし、それぐらいの事情なら信用してやるよ」
「怜君……」
「それに、まぁ……」
あぁ、くそ。
こういう恥ずかしいこと、俺から言うのは初めてか。
「……幼馴染だしな」
「――っ」
俺の言葉に、目を見開いた泉希は、一度顔を俯かせ、体をひとしきり震わせてから、満面の笑みを浮かべて顔をあげた。
「うん……ありがとう」
「……あぁ」
その顔がまた、なんだか可愛らしくて。
何とも言えぬ気分になったところで、恥ずかしくなってきたので。
今度は俺から視線を外して、話を戻した。
「時間も時間だ。そろそろいくぞ」
だがしかし、時間が迫ってきているのは確かだ。
すでに時刻は夜の10時過ぎ。約束の時間は過ぎてしまっている。
今は頼れる仲間である泉希に視線で合図を送ると、こくりと頷いて準備を始めようとした。
「わかったよ。それじゃ――って、あ」
「ん? どうした――あ」
俺達が見つけたものは。
「ぐすっ……私のことなど忘れてしまったのですね……別に寂しくないですもん……」
未だ、拘束を解かれずに床でしくしくとべそをかいている高峰がそこにいた。
「……と、とりあえず行こう?」
そう言って、高峰の元に近寄り、拘束を解き始める泉希。
お前は本当にお人好しだ……
俺だったら、
「おら、さっさとしろ。人質だろ」
これぐらいは言っているはずだ。いや、すでに口に出している。
言った俺の言葉に、怒りを覚えたか、強く俺を睨みつけてくる高峰。
「うるさい! 今更構ってきてなにを――」
「あーはいはい。よしよーし」
「ふ、ふぁ……!」
とりあえず頭を撫でたら静かになった。
なんだこいつ。おもしろい。
「さっさと行くぞ」
「は、はい……」
そう言って、高峰を立ち上がらせた俺は、そのまま学園に向かうべく、玄関の扉を開けようとした。と、
「あ、待って二人とも!」
「今度はなんだ?」
こちとら急いでるんだ。
と、俺が足を止めて振り返ると、一刻も争う状況で、泉希はゆっくりとした足取りで俺達の元に近づきながら、懐から何かを取り出していた。
そうして、俺達の目の前にまで来た泉希は得意げな笑みを浮かべながら、その取り出したものを指さした。
「うふふ……時は金なり。一刻を争うんだから、時間は有効に使わないと」
「あ?」
だから、急いでるわけなんだが?
と、俺が訝しげな表情をしていると、泉希は、それを開いた。
「二人とも、私の肩に手を置いて」
「何を――すっ!?」
するのですか、と尋ねる高峰の手を取り、泉希の肩に載せる。
一刻を争うんだから、話をしている暇はない。
それすらも話す暇はないから態度と行動で示した俺は、高峰の手を離して、自らの手をその反対側に置いた。
「じゃぁ、行くよ。ちょっと酔うかも、ね」
「「――?」」
次の瞬間には、俺の姿はその場所から消えていた……と思う。
なぜこんな曖昧な表現をするかって?
その場に俺がいないのだから、確認しようがあるまい。