小説『気がついたその時から俺は魔王』
作者:VAN(作者のブログ)

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そんな俺が次の瞬間いたのは、教室の中。
正確に伝えるならば、そこは平陽学園の教室の中。そしてさらに細かく言うならば、俺の席の傍に、俺達の姿はあった。

「え、え、え……!?」
「なんだ、今の……なんか気分が悪……!」

自らの体に起こった出来事に混乱を覚えつつ、胃の中がかき回されたように気が悪くなってくる。顔を伏せ、見慣れた自分の机に手を着きながら片手で口を押える。胃液が逆流してきそうだ……
そんな悪い気分になっている俺に駆け寄って、心配そうに背中をさすってきたのはやはりというか泉希。

「や、やっぱり最初は酔っちゃうよね。大丈夫?」
「大丈夫じゃないから酔ってるんだ、馬鹿」
「うっ――心配してるのに……」

ため息を吐きながら泉希の手を払って、大丈夫だというのを示したが、口から出ててしまった言葉に、泉希はわかりやすく落ち込む。

「ふん、魔王と名乗る男が、情けないですね」
「なんで、お前は大丈夫なんだ?」
「お嬢様のお仕置きに比べれば、これぐらいは問題ありません」
「…………」

だから麗華はお前に対してどんだけSなんだよ……戦いの時もSだけど。
ってふざけてる場合じゃない。

「なぁ、今のは……?」

時間は惜しい。
先ほど、自分の身に起こったこと。確認しておくことも大事だろう。
そうでないと気になって戦いに集中できないし、眠れない。
泉希に向かい尋ねると、彼女は懐中時計を手に、笑ってこう答えた。

「私の能力だよ。原点回帰(キャンセラー)って言えばわかるかな?」
「原点回帰……」

いやさっぱりです。
と、俺が首を傾げていると、会話の輪から外されまいと、高峰が横から発言してくる。

「それって、学園の正規軍が使っている能力ですよね? 正午ピッタリに時間を戻すっていう、あの……」
「うん、それと一緒。正規軍は能力の乱用は禁止されてるけど、私はどんな時間でも、戻ることができる。しかも、場所や状態の復元も自由なんだ」
「へ、へー……」

なんか、俺の臣下って俺よりも性能良い能力使ってないか?
ちょっとうらやましいぞ。
つまり、泉希の能力は、ドラ○もんでいうタイムふろしきみたいなやつだな。分かりやすく例えると。

「じゃぁ、あの時部屋にいきなり現れたのは……?」
「うん。記憶の中で一番新しい、怜君の部屋に行った時間のポイントに、戻っただけだよ」

あーなるほど。
納得し頷いていると、隣でまた高峰が騒ぎ出す。

「なっ――私だけじゃなくて、この人まで部屋に連れ込んでいたのですか!?」
「あ? 何言ってんのお前?」

顔を真っ赤にして騒ぐ意味がわからん。
俺は乏しい記憶力から最近、泉希が部屋に訪れた、という出来事を探る。
と、それは確か3週間ぐらい前か。

「確か、お前が来たのって、俺が寝坊した時だっけか?」
「寝坊っていうか、完全にサボリだったよね。怜君の部屋に荒川君達と一緒にプリント届けに行ったんだよ」

荒川達というのは、この場合あの荒川、伊坂のコンビだろうな。

「あーそうだそうだ。――あれ、他に誰か来ていたよな……?」
「クラスメイトの女子だよ。怜君が荒川君達の相手してる間に帰っちゃったんだよ」
「ん……それはなんか悪いことしたな」

全然記憶にないんだけどな。

「寝坊……プリント……クラスメイト同伴……」
「ん、どうした?」

目を点にして、俺達の会話から断片的なキーワードを繰り返す高峰。
そんな高峰を見て、泉希が悪戯めいた笑みを浮かべて彼女に近づき顔を覗き込む。

「あれれ〜♪ 高峰ちゃん、何考えてたの〜?」
「な、なにも考えていません!」
「なにも考えてないとか、お前はアホか」
「ぐ、ぬぬぬ……!」

高峰をいじったところで、雑談終了。

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