小説『気がついたその時から俺は魔王』
作者:VAN(作者のブログ)

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「それにしても、実にあっけないですね。俺の本気を出すまでもありませんが……この能力、自分の体を加速させると本当に疲れるんですよね。もう立ち上がらないとは思いますが、念のために保険でもかけましょう」

そう言って、手を上げた男。
すると、高峰 咲楽の隣で控えていた男が、彼女の首筋に刃物を押し当てた。

「ひっ――!?」
「た、たかみね……!」

レイピアを杖代わりに、ボロボロの体を立ち上がらせた高峰の前に、男が歩み寄る。

「少しだけ動かないでいてくれればいいんですよ。思い切り、最加速度で蹴り飛ばすだけですから」
「っ……」

麗華の顔が苦渋に歪む。
そうか。
彼にとって、勝利とはただの結果論。勝てばいい。その過程は、どうでもいいのだ。
しかし、その考えを否定することは私にはできない。
例え卑怯と言われようが、結果がすべて。
魔族とは……そんなものだ。

「それでは、夜遅くに喜劇に付き合っていただきありがとう。あなたが滑稽に抗う姿は充分、おもしろかったですよ」

そう言って、身構える男。
人質をとられ、抵抗もできず、ただただ敗北を待つ麗華は、ふっ、と顔を伏せた。
諦めたのか、と思ったが。

「……ふっ」
「ん?」

男に負けないぐらい、不敵な笑みを浮かべた麗華が、口元に笑みを浮かべて、こう言った。

「確かに、おもしろいですわ……あなたの本気で私を倒せなければ、それは同時にあなたの敗北となるのでしょう? いいですわ」
「……冷静な判断力を失ったために、賭けにでるというのですか?」
「あら、知らなかったのですか? 私、賭け事は大好きなのです」

そう言って、レイピアを床に突き刺した麗華は、ただ両手を下げて男に直面する。
それを見た男は恍惚の表情を浮かべる。

「それでこそ、俺が倒すべき成沢 麗華です」

ぐっ、と男が足に力を込める。

「さぁ……」
「っ――――」
「エピローグと、いたしましょう」


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