「――あー?」
気がつくと、俺は学生寮の部屋のベットから転がり落ちていた。セットしておいた携帯のアラームが鳴り、朝らしい爽やかな日差しがカーテンの隙間から差し込む。
ぼう、っとする視界を巡らせて、俺はそこが屋上でないことも、魔物や愛奈の姿もないことを悟る。
夢……だったのか?
俺は、カーテンの隙間から差し込む日差しに目をやりつつ、欠伸をかいた。
「ふぁ……アホくせぇ」
体を起こしてアラームを止め、俺はそう呟いた。
夢……そう夢だ。なんであんな夢を見たのだろう、と俺は自分の煩悩にとりあえずは呆れてみる。夢にしては鮮明だったが……
それと同時に、俺の視界の隅に入る、先祖代々から受け継がれてきた黒光りするネックレスを見て、昨日だか今日だか、夢の中で愛奈に言われたことを思い出す。
「魔王、か……」
カーテンを開け、その宝石を太陽に透かしながら俺は思う。
夢のなかで、魔王と呼ばれていた俺は、変わらない日常を変えるなにかに遭遇してしまって、呆れるほど興奮を覚えた気がする。夢のなかだってのに……
「ふぁ……アホく――」
ピーンポーン……!
俺がおきまりのセリフを吐こうとした直前に、来客を知らせるインターホンが部屋に響く。こんな時間に来客とは珍しいな……
俺はこれからあの夢にも出てきた学園にも行かなくてはならないのだが……
「あぁ、はいはい」
どうせ寮長かなんかだろうと、俺が何気なく開けたドアの先には――
「どぉも〜、魔王様。お迎えに来てやったぜ」
――バタン。
夢だ。夢の延長なんだ。
そう自分に言い聞かせながら俺は扉を閉めた。なぜかって? 夢に出てきた人物が、俺のこと魔王様と呼びながら目の前に現れたらそら閉めるよ!!
って――迎えに来て、やったぜ?
「お前言葉づかい悪いな!?」
「おぉ、開けてくれた」
「魔王に使う言葉か、それは」
思わず扉を開けてツッコんでしまった。だって魔王って呼ぶのに、呼ぶのにタメ口って。そんなジト目ツッコミをした俺に、飄々とした態度で話しかけてくる男。平華学園の制服を着ているそいつは、詫びる様子もなくにこやかに話を続ける。
「そう言えるってことは、魔王の自覚はそれなりにあるわけだなぁ。上出来上出来」
「い、いやこれは……てか、口調直ってねぇし」
「直す気ないからね」
そんな生意気な口を利くこいつに若干カチンとくる俺だが、今はなによりあの出来事が夢じゃなかった方が驚きだ。いや、夢だって希望はまだ――
「アホ面してないで早く支度しろよ、魔王様」
――ありませんでした。思わず両手を上げて、オワタ、とやりたくなるほど、俺は今のこの現状に混乱していた。