■第二十一話【確率1%】
1時間後。
「うぉぉおお…終わった…。」
ばたんと机にぶっ倒れた。
「大げさだな、課題で」
雅希はのび〜と、背伸びをして再び座った。
そしてパタンとノートを閉じ、
机の上に、ぽすっとのせた。
「サンキュ、また頼むわ。」
「…まじか。」
「いいじゃねェの。お前さんの復習にもなるだろー。」
「そうだけど…はぁー」
俺はごろんと床に転がった。
電気は俺と雅希をずっと照らしていた。
眩しいな…。
すると、雅希もごろんと床に転がった。
そしてどこか遠くを眺めるような目で天井を見上げていた。
「…俺達はさ、ずっと化け物扱いだったんだよなー…。」
「…ああ、伊坂に聞いた。」
「俺らはそんな気にしてなかったんだけど、実散がすげぇ気にしててさ、イジメもあったし。
アイツは体も弱かったんだけど、精神的にもアイツはやられてきた。」
…俺はただ雅希の話を黙って聞いていた。
「それでいつの間にか学校にも行けず、病院泊まりになっちまったんだ。…実散は。」
「…」
「その頃のアイツはただ息をしているだけの人形みたいだった。
話しかけても答えないし、ホント…みんな辛かったんだ。
だったら、俺達が、いや実散だけでも「伊坂家」の人間じゃなかったら良かったのにって
何度も思っちまってなぁ…だったらだいぶマシだっただろうってな」
雅希は自分の顔を腕でおおった。
…実散ちゃんにもそんな過去があったんだ。伊坂も言っていた。
『化け物扱いされてたの。…好きでなったわけじゃないのにね』
…同じ人間なのに、そう言うところを「人」はどうしても
差別してしまう。
「…だから俺は、実散に少しでも元気になってもらおうと思って
毎日実散の病院に通うことにしたんだ。それから毎日通ってるうちに
実散は少しずつ話すようになった。それが嬉しくて俺はもっと話したいと思った」
「それで、実散ちゃんは今を取り戻した…。のか」
「…そーゆー事。」
雅希はだいぶ時間をかけていた。
一度折れた心を治すには時間が相当かかっただろう。
それを雅希はめげず、今 の実散ちゃんを取り戻した。
「でも、一つ。…問題が残った。」
…問題?
「学校に行けない。」
「…」
イジメのことあって、いまだそれは治せない。
彼女には今も息苦しい環境だろう。
「化け物」と言うトラウマ、また一度折れることがあったら
もう…二度と彼女の心が治るという確率がほぼないと言っていいほど
つらい事情だった。
【続く】