■第二十四話【逃走猫】
玄関の扉を開くと、くもり空が広がっていた。
伊坂は「傘がいるかしら」と言って
もう一度家に入って傘を取りに行った。
玄関まで悠一さんは見送りをしてくれた。
「羽乃くん、寧くん行ってらっしゃ〜い」
「あ、あの泊めてくれて有り難うございました」
ぺこりと頭を下げると、
「いいんだよ、またいつでも遊びにでもおいでよ」
悠一さんはにっこりと笑顔を浮かべてくれた。
本当にいい人だな。
そして伊坂が戻ってきて、バス停まで急いだ。そう言えば泉は学校まだ行ってなかったな…
「泉はまだ学校行かないのか?時間的に。」
「ええ、今なんでも学級閉鎖らしくて休んでるらしいわね」
「いいねぇ。小学生は」
「…朽田君、口ばっかり動かしてないで足を動かして。」
「はいはい」
バス停に着けばバスはもう来ていて席もほとんど空いていなかった。
窮屈なバス停の中に俺と伊坂は乗り込んだ。
■教室
「は〜やっと着いた…バスの中で酔った…。」
「あはは!なんだよバスぐらいで酔うなんて笑っちゃうぜー」
「…五月蠅ぇなぁ。酔いやすい体質なんです。」
「さいですかー」
こいつは毎度毎度朝からテンションの高い奴だ。
話していると、廊下から伊坂がかすかに俺に向かって
手招きをしていた。それに気づいた俺はガタリと、席を立った。
「お、どうした羽乃」
「ちょっと用事」
「ふーん」
急いで教室を出て伊坂のもとに行った。
すると伊坂は「こっちに来て」と目で俺に言った。
着いたのは校舎の裏側だった。
めったに人が来ないような場所だ。
こんな所に呼び出すなど何事だ、伊坂。
「どうしたんだよ伊坂、何かあったのか」
「…ええ、まぁ。…今日実散の病院へ行くでしょう」
「ああ」
「…実散が病院を抜け出したって言う連絡が今悠一からあったのよ」
「…抜け出した?」
伊坂はこくりと頷いて長い髪を耳にかきあげた。
「今までこんな事無かったらしいけど」
「…」
「まぁ…今こんな事言ってもどうにもならないのは分かってるけど。
悠一たちが探してくれてる見たいだしね」
「俺達は学校が終わってからしか様子見れねぇしな」
そうね、と言って伊坂はスッと俺の横を通り抜けていった。
「いきなり呼び出してごめなさい、…教室に戻りましょ」
「…ああ」
病院から抜け出すなんて…、どうしたと言うんだろうか。
雅希が相当心配するだろう…。
教室に戻る途中はソレで頭がいっぱいだった。
…謎の実散と言う少女。
それは会うまで分からない。
【続く】