小説『遊園地』
作者:aya(午後4時の月)

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 空は気紛れにもだんだんと曇り始めていて、辺りには雨の匂いさえ漂っていた。
 これは降るかもしれない、そう思うと同時に、打って変わってしまった天気に感謝もしていた。
 強く明るい日差しが今の僕達を世界に浮かび上がらせてしまったら、僕達は完全に行き場を失ってしまう様なきがする。
 僕は目を閉じて微かなクマの泣き声を耳に感じながら、クマの気持ちが落ち着くまでただ待つ事が、唯一僕がクマに対して出来ることだと思った。


 僕の心の中にはいつも、煮え切らないしこりの様なものがあって、それが時々真夜中に古傷の様にズキズキと痛んだ。
 僕はそれを全て「日常生活」と割り切って、無理に頭の中から追い出そうとしていた。
 しかし今、クマの涙の意味を僕の心が感じ取ると、僕は自分の「日常生活」がその痛みを中心として回っている事にはっきりと気づいた。
 僕は救いを求めていた。
 過ぎ去っていく日々の中に何をも見出すことが出来ずに、空しく怖かった。
 小さい頃、いつも何かを追い求めていた。
 二十年前、小学校に入学すると同時に僕は仮面を見に付けることを覚え、そしてそれはいつも張り付いた哀れな笑顔だった。
 母は僕に毎日のように言って聞かせた。「どんなつらい時でも笑顔を絶やさないで。そうすればいつかそれが報われる時がくるから・・・・・。」
 僕は母の言葉を心から信じ、どんなにつらくてもどんなに腹が立ってもどんなに泣きたくても、いつもヘラヘラ笑っていた。
 ある日突然仲間から僕一人がのけ者にされた時も、クラスメートの財布が盗まれ、それをみんなして僕が犯人だと決め付けた時も、そして先生までもが僕を目の敵にして、事あるごとに僕を叱った時も・・・・・・。小学、中学、高校と、僕はいつか報われると信じ、笑顔を絶やさず暮らしてきた。
 しかし、今の僕に一体何が残ったというのだろう。
 母はいつか僕は報われると言った。
 だけど、報いって何だ?安らかな生活?
 僕にはわからない。何もわからない。わからないまま日々が過ぎ去っていく。形のない痛みだけを残して。
 僕は救われるだろうか。僕は救えるだろうか。僕はクマを、自分自身を救えるだろうか。

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