小説『ソードアート・オンライン〜幻の両剣使い〜』
作者:定泰麒()

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【The Savior】 寡黙な壁 【鋼鉄】

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 「テツさん、時間稼ぎお願いします」

 「わかった…」

 そういって、一人の英雄が一人の両手用直剣使いに時間稼ぎを頼んだ。







 その両手用直剣使いの名は、テツロウ。 SAOにおいて、名実ともに一番の壁戦士(タンク)だ。

 そしてそのタンクとしてついた二つ名は、【鋼鉄】

 何とも簡素で、つまらない二つ名だ。しかし、その二つ名は決して伊達ではない。

 実際に【鋼鉄】のように堅いのだ。いや堅く見せているというべきだろうか…

 決してLVの振り分けでVITを重点的に振り上げ、その結果【鋼鉄】と呼ばれ始めたわけではない。

 それは、彼の得意技である武器防御(パリィ)があったからだ。

 パリィを成功させるのは、とても難しい。全てのキャラクターやモンスターによってタイミングが異なって来るからだ。

 だが彼は、それをたやすくやってのける。層攻略のボスに対しても、相手の一撃を見て、受けただけでパリィをすることが可能だ。

 しかし、それができるようになったのは彼の才能のおかげだけではない。

 あり得ないほどの、努力と時間をパリィにかけたからこその実力なのだ。

 彼は、ほんとに不器用だ。寡黙であまり喋りもしない。 

 だから何を考えているか、ギルドメンバー達でさえもいまだにつかめない。

 だが、彼がそこにいるだけで安心感がある。まるで壁を背もたれにしているような安心感だ。

 それこそが彼の取り柄であり、実力である。

 では、なぜ彼はそこまでのモノになったのか。それは、β版での時のことだった……





過去――――――β版SAOにおいて

 「テツさん、時間稼ぎお願いします」

 「わかった……」

 これは、アイズとテツロウの会話。β版においての十層目の攻略をするためにマップのデータを集めていた時のことだった。

 急に降って湧いたかのように、どこからか50体近くのモンスターがあらわれた。知能があるモンスターらしく、全部が武器や防具を装備している。モンスターの名は、≪リトルフロッグマン≫まさに名前の通りに、カエルの姿で剣や盾を持ち、攻撃してくるそんなモンスターだ。

 それに対してのこちらの人数、わずか2人。

 元々は、8人で来ていたのだが、ここに至るまでに死んでしまった。

 そろそろ戻ろうとしている矢先にこの事態になってしまい、非常に大変な状態に陥ってしまったのだ。

 さらにその時、転移アイテムを持っていたメンバーが死んでしまっていたため、使えないというのも状況が悪かった。

 だから最初に、アイズがテツロウに向け、時間稼ぎを頼んだのだった

 それは、アイズの体力が半分を切っており、今までの経験や才能があろうとも多勢に無勢では、さすがに死んでしまう。

 アイズは、体力を回復するために、どうしても時間が必要だった。

 その時間約1分

 テツロウは、その時まだパリィをすることができなかった。

 そのため、ギルドでは随一のVITを誇っていたテツロウは、どんどんとHPを減らされていった。

 そして、HPが無くなる。そうテツロウが思った時のことだった。

 「すいません。テツロウさんもう大丈夫です。後ろに下がっていてください」

 そこにアイズがテツロウを助けに入ってきた

 テツロウは、この時、ある事実に驚愕していた。

 自分の体感速度的には、2分経っていると思っていた。しかし、実際にはまだ30秒ほどしか経っていなかったのだ。それは、アイズのHPを見ればわかる。

 1分間で体力が全回復するはずだったのに、そのHPバーは、4分の3ほどしかなかったのだ

 その事実に気づいたテツロウは、自分に絶望した。

 そしてその後、アイズがモンスターと戦っているのを見ることしかできなかった。

 戦闘も終わり、結果としては、アイズは無事にモンスターを倒し終わり難なくを得た。

 しかし、その戦闘はテツロウの心の奥にふかく傷痕を残した。






 そこからのテツロウは、以前に比べさらに強くなった。以前の実力でも、壁戦士の中では1,2争っているほどであったのに今では、他を寄せ付けないほど圧倒的に抜きんでている。

 ここまで来るのに、本当に努力をした。

 ギルド内では、一番の剣速を繰り出せる。シュタインに何度も何度も挑み、何度も何度もクエストへ行き、パリィを達人の域まで登らせた。

 その結果に今がある。

 彼は、【The Savior】にとっては欠かせない存在だ。彼がいるから安心してクエストに挑むことができ、彼がいるから後ろを気にしなくてもいい。

 そんな彼は、今日も一言も話さない。話すとしても返事だけ。

 だが、みんなに愛され、みんなに頼られる。

 それがテツロウ。

 今日も彼は、仲間とともに層攻略を目指す。










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