小説『ソードアート・オンライン〜幻の両剣使い〜』
作者:定泰麒()

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【The Savior】 製造集団 【Creators】

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 【The Savior】には、【太陽】【月】以外にもモノを作ることを生業とした者たちがいる。

 その名は、【Creators】
 リーダーである女性プレイヤー…ソーニャを中心とした製造職の4人組である。他のメンバーは、男性でトム、ソー、ヤーの3人だ。

 その者たちは、【太陽】【月】が層攻略を行うトッププレイヤー達向けであるのに対し、それ以外のプレイヤー…つまり生き残りをかけて戦っているが、層攻略をしない人達。言ってみれば、一般のプレイヤーだ。

 彼らは、その人達向けの装備を作っている。

 彼らの仕事は、武器や防具の量産をすること。その仕事ぶりは、早くて無駄がなく、それでいて精密、まるで機械のようだ。

 今ではそんな彼らであったが昔は、そうではなかった

 仕事は、そこまで早くもなく、武器や防具の質もそこまでは高くなかった。つまり、普通レベルの鍛冶屋だったということだ。

 そして、そんな彼らが今のようになったのは、理由があった。

 その理由とは、いつもとは違いアイズは関わっておらず、とある少年からの依頼からであった。その出来事がなければ決して今のようには、なっていなかっただろう…

 その少年とは、まさにのちの英雄となる生きる伝説となった少年だった。



過去――――――β版SAOにおいて

 9層目の攻略戦の前の日のことだった。あるプレイヤーから【Creators】への依頼があった。

 その依頼とは、エナメルレザー装備一式とこの時点で最高と称されていた片手用直剣〈ビースパタ〉の作成。

 この依頼が来た時。4人は、喜ぶと同時に緊張し、恐怖した。

 それは、この〈ビースパタ〉にはとある噂が存在していたからだった。その噂とは、この〈ビースバタ〉は約90%の確率で作成に失敗するというものだった。もちろんそれは、噂でしかない。

 しかし、噂にまでなるというのは火のないところに煙は立たないというようにきちんとした原因が存在した。

 というのも、その当時のトップレベルの鍛冶師たちが軒並みにこの〈ビースパタ〉の作成に失敗していたからだった。

 本当にただの偶然の重なりであったのだが、その偶然の重なりがとてつもない噂になりこの〈ビースパタ〉の作成依頼を出してもどの鍛冶師も受けなくなった。

 それは、この〈ビースパタ〉を作るための素材入手がとても難しく。もし作成を失敗しようなものなら、客が減ることが間違いなく、実際に作成に失敗した人たちの元への客足は、少なくなっていた

 彼らにとってその依頼は、一種の賭けだった。成功すれば、一気にトップレベルの鍛冶屋たちの仲間入り。そして客足も一気に増えること間違いない。

 がしかし、失敗しようもんなら……先ほど説明したとおりだ。

 そこで彼らが決断した答えとは……依頼を受けるということだった

 それは、一世一代の賭け。自分たちにとっては、最後のチャンスと思って決断した結果だった。

 最初に取り掛かったのは、エナメルレザー防具。

 このエナメルレザーというのもかなりレアな装備だ。≪サンドクロコダイル≫というワニによく似たモンスターからドロップすることができる。〈エナメルの皮〉というのが必要だからだ。

 取れる確率は、低く入手困難な素材の一つだった。

 そしてエナメルレザー防具を作ることになんとか成功し、次に問題の〈ビースパタ〉に取り掛かることになった。

 やることは、簡単だった。使用するインゴットを焼き、そのインゴットごとに設定されている叩く回数を打ってやればいい。しかし彼らは、いざそれをやるとなると中々手が出せなかった。

 どれくらい時が経っただろうか。意を決したように、ソーニャは槌を持ちインゴットをたたき出した。

 鉄を叩く独特で、すっきりと音がぬけるような快音が聞こえる。そして、徐々にインゴットが剣の形を形成していく指定された回数叩き終わり光に包まれていた剣がその姿を現す。

 そこにあったのは、〈ビースパタ〉ではなく失敗した時にでるゴミだけだった…

 彼らは、やっぱりかと思うと同時にこれからどうすればいいんだと思った。まず依頼主への報告からだと思い早速それを行った。

 依頼してきたのは、まるでどこかのゲームで主人公として出てきそうなイケメンの男キャラ。

〈ビースパタ〉やエナメルレザー装備の素材を持っているということは、相当な腕前のプレイヤーであろう。
そして、店の前で待っていた男に事の次第を告げる。

 彼らは、最悪な展開しか予測していなかった。だが帰ってきた答えは、意外すぎるモノだった。

 「そうなんだ。しょうがないね…じゃあまた挑戦してもらっていいかな?」

 というものだった。彼らは、当然ながら驚いた。

 〈ビースパタ〉のインゴットは、とても入手困難だ。≪アンテラゴーレム≫というモンスターを50体倒して1個もらえるというクエストで、難易度が高く、パーティでやればいいのであろうが、あいにくソロ専用という最悪なクエストなのだ。

 そして、彼らがさらに驚いたのは、その男がまだあと2個持っているということだ。

 彼らは、ただただ驚き、そして感謝した。

 一度失敗した、自分たちにチャンスを与えてくれたことを……

 そして次は、成功させてやると誓い、ソーニャは、作業に取り組んだ

 結果は、成功。

 そこからの彼らの道のりは、言うまでもないだろう。

 実は、なぜ彼らが層攻略の人達に向けての武器や防具を作らなくなったのか? それにも原因があるのだが、今は必要のない話である。

 〈ビースパタ〉製造成功後のことなのだが、男は、代金だけ払いありがとうというとその場からどこかへ消えた。

 そして彼らは、それ以後彼と会うことはなかった。そのため彼らは、その男を神と称えて今でもその時の話を大事にしている。

 そんな彼らが、その男がキリトという少年だったということを知るのは、かなり後のことだ。

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