小説『ソードアート・オンライン〜幻の両剣使い〜』
作者:定泰麒()

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五十層目攻略 前編

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 後1時間で五十層目攻略が始まる。やっとここまで来た。だがここからが本番だ。原作でもここが一番ボス戦が荒れ、多大な被害が出ていた。そして、あのヒースクリフの伝説が生まれたところである。

 この五十層目攻略には、キリトは参加していない。きっと参加していれば、原作には、キリトの視点から見たヒースクリフの様子が描かれていたはずだ。昨日、参加するか確認するメッセージを送ったところ、参加しないという返事が返ってきた。

 案の定といったところだった。ここで無理にでも、参加を要請し、死んでしまわれたら元も子もない、そんな危険性がある以上無理強いは、できなかった。

 そしてどうやら、これまた原作通りであろう。【KoB】(血盟騎士団)は、今回来ないらしい。いや、どうせ後で来ることになるのだろう。援軍として…

 だが援軍に来るということは…かなりの被害が出るということだ。心してかからないといけない。俺がいくら強かろうと、被害が出てしまう。俺は、神様では、無いのだ。



 ちなみに今回参加するメンバーとしては、【The Savior】からは、シュタイン・レミナ・ミント・レオ・ディーネそして俺だ。原作メンバーは、今回はいない。

 参加人数は、約40人ほどだった。ここまで生き残っているソロプレイヤーやいわゆる層攻略組と言われているギルドなどで構成されていた。

 いずれも高LVプレイヤー達ばかりだ。この中の何人生き残り、誰が死ぬことになるのだろう。いずれも見た顔がある奴らばかりだ。中にはβ版の時から顔を知っているものもいる。
 
 俺は、怖い。俺は、少数のここまで命を懸けて戦ってきた人達が死ぬのが…死んでほしくは、無い。だが、死んでしまう運命なのだろう。ここは、俺にとって小説の世界ではなく、現実になっているのだ。命を散らしてほしくは、なかった。





 この苦しみを過去にも、味わったことがある。それは、二十五層目攻略のときだった。いわゆる【軍】というギルドが壊滅的なダメージを受けた時だ。

 あの時も、まるで地獄のようだった。あの当時から、【The Savior】は最強格ギルドと称されていた。そしていつものように俺がリーダーとして層攻略に乗り出そうとしていた時だった。

 ファンデルという【軍】で大佐の称号を得ていた人物がいるのだが、彼が、コーデッツとともに俺の所へやってきてこう言ったのだ。

 「今回の攻略は、我々【軍】の指揮のもとで戦っていただきたい」

 という正直正気を失っているのでは、ないかという提案をしてきた。俺はもちろん反対だった。【軍】には、原作のイメージや実際に経験した出来事もあり、あまり好きではなかったし、【軍】まかせてプレイヤー達を死なせるのが嫌だったからだ。よって俺は、駄目だと一蹴した。

 するとファンデルは、まるで待ってましたと言わんばかりに御託を並べだした。

 「貴様は、何様のつもりだ。毎度毎度リーダー面ばかりしやがって、我々は、お前のことなぞ一切信頼していない、それにお前ばかり指揮が執っていては、お前が死んだときに誰がリーダーシップを張るのだ。我々しかいないだろう。だからそろそろ我々にも指揮権をよこせ」

 前半は、聞くに堪えない言葉であったが、後半は確かに筋が通っている部分もあった。違う所は、決して【軍】という組織は、リーダーシップを張れない。張るとしたら、第一候補は、ヒースクリフ。第二候補で【The Savior】のレミナかアンディだろう。だから俺は、ある提案をファンデルに持ちかけた。

 「そうだね。確かに俺が死んだときのために、指揮権を他に移す必要があるかもしれない」

 「そうか、わかってくれたか。では、さっそく…」

 「待て、誰も君たちに譲るとは、言ってない。というか君たちには、譲るつもりはない。だから今回は、KoBの団長、ヒースクリフに頼むことにしよう」

 俺の言葉に、ファンデルは鬼のような顔になっている。見ていて非常に滑稽だ。

 「…いいだろう。では、今回は我々【軍】だけで層攻略をやらせてもらう。そして今後我々は、お前の指揮に【軍】は従わない。では…」

 そう言って。ファンデルはコッデーツとともに去ろうとする。

 「待て…「待てだと、やはり我々の力が必要なのだろ」

 「違う。勘違いするな。ただ、君たちには、絶対無理だ。と伝えておきたくてね。それでも君たちは、行くのかい?」

 こう言われては、ファンデルの方は引くに引けなくなったのであろう。俺の顔を見て、鼻で笑うと迷宮に【軍】を引き連れ向かっていった。

 そして、あの悪夢が起こってしまったのだった。油断していた。原作で、二十五層目で【軍】が壊滅的な被害を受けて攻略にでなくなったと言っていたのだが、今回【軍】が来ていた人数が30人と普通なら十分すぎる人数で来ていた。もちろん彼らのLVも申し分なく、ファンデルもあまり好感の持てた人物では、なかったが、十分その当時の強力なプレイヤーの1人であったし、【軍】でもここに来るのは、精鋭ばかりだ。だからこそ【軍】は、あんなことを言いだしたんだろう。

 俺は、このことから原作とは違う結果になると思っていた。しかし、違っていた。間違いないなく原作通りだった。【軍】が迷宮に入って、15分後。ある一人のプレイヤーがHPがレッドゾーンになりながらテレポートして戻ってきた。

 「アイズさん…助けてください。ここの層のボスは、強すぎます。【軍】は崩壊寸前です。それにファンデル大佐もなくなってしまいました。お願いします…助けてください」

 彼は、それだけ言うと気絶した。

 俺は、愚かだ。いつも大事なところで、ミスしてしまう。俺は、急いで層攻略組を編成し、迷宮奥のボスのいる部屋に向かった。



 扉を開けて、中に入る。

 俺の目に広がってきた光景は、まさに戦慄。

 出発前に【軍】は、確かに30人態勢でこのボスの元へ向かったはずだ。だが、俺の目の前に人の数は、10人。しかも、みんなもうボロボロだ。イエローゾーンとレッドゾーンしかいない。しかもレッドゾーンの方が数が多い。まさか20人もの人が、わずか20分で消えたというのか…

 俺は、すぐさま号令をかけてボスに攻撃を仕掛けた。もちろんその中で【軍】のやつらを下げさせた。

 ボス戦自体は、すぐに終了した。それは、【軍】のやつらがその身を投げ打ってボスのHPを減らしてくれていたからだろう。


 
 全ては、俺のせいだ。俺には、わかっていたはずじゃないか…

 俺は、なぜここにいる?

 それは、人の命を救いたかったからだ。

 じゃあなぜお前は、見殺しにしたのだ?

 わからない……

 この嘘つきめ!お前は、わかっているはずだ!!

 そう……、わかってる。俺は、【軍】が嫌いだったんだな。原作でも、駄目な奴らとしてのレッテルを張られている奴らが、まるで奴らは、自分達こそ正義と言わんばかりの行動して、いろんな人に被害を与えていた奴らが……俺は、嫌いだったんだ。あいつらにもいろんな訳があって、家族もいる人もいたはずだ……

 俺は、最悪だ。

 



 俺は、あの時に決意した。もうこれ以上無駄な犠牲は、出させない。

 俺は、考えた。これ以上被害を出させないようにするには、どうしたらいいのかを…

 そして俺は、思いついた作戦を今から実行しようとしていた。

 成功する確率は、どのくらいなのだろうか…決して高いことではないのは確かだ。

 しかし、成功させる。させなければいけない。これまでに命を散らして行ったもの者達のために。



 
 五十層目攻略まで、後1時間。
 
 俺は、高鳴る胸を押さえつけるのに精一杯だった。

 
 



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