五十層目攻略 後編
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ヒースクリフ率いる援軍達は、その光景に戦慄を覚えると同時にここで一体なにが起こったのかという疑問を抱いた。それは、当然だろう。その場には、このSAOでは、誰もが知っている最強のプレイヤー、アイズしかいなかったのだから。
「来るのが、遅かったですね。ヒースクリフ。あともう少しでこの敵を倒し終わります。手伝ってください」
と部屋の中から聞こえる。この状況と声から考えてアイズから発された声のようだ。その声を聞いて一斉にみんながアイズに近寄ろうとし、部屋の中に入ろうとする。
「だめです。ヒースクリフ以外は、この部屋に入ってはいけません。敵は、非常に強力です。敵の攻撃を喰らえば一撃で死に至るでしょう。それに敵は、最高のステルス機能の持ち主のようです。だからヒースクリフ以外は、だめです。リスクが高すぎます」
そのアイズの言葉を聞き、みんなは動揺を隠せずにいる。
そして、動いたのは、あの男だった。
「わかった。アイズよ……私がともに戦おう。みんなは、ここで見ていてくれ。もし我々が死ねば…キリトというプレイヤーに頼んでこのボスを倒して欲しい」
ヒースクリフは、そういうとアイズが一人立っている部屋へと足を踏み入れた。
「ありがとう…ヒースクリフ。信じていたよ…」
アイズは、そういうとヒースクリフのほうを見た。
「来て当然だ。君のとこの可愛い女の子に、泣きながら助けてほしいと言われてしまってはね…」
ヒースクリフは、それだけ言うと前を向き、剣と盾を構えた。アイズの方も、それを聞くと少々微笑んだ。そして前を向き、見たこともない剣を構えた。
「さぁそろそろ、次の攻撃が来るだろう…きっと俺の攻撃を残り60回ほど当てれば倒すことができる。ヒースクリフ…スイッチをしよう」
スイッチとは、よくボス攻略なんかに使われる高等技術のことだ。これを使えるプレイヤーは、そうはいない。というのも、このスイッチという技術は、2人のプレイヤーによって行われる。前衛と呼ばれるほうが敵を攻撃し、タイミングを見計らい後衛と前衛と交代する。簡単に言えばそれだけ、しかしそれだけがかなりの難易度を誇る。まず前提として、完璧に息を合わせないと駄目だし、お互いにそれなりの実力がないとタイミングを損ない大変なことになるのは、間違いない。
それをアイズは、ヒースクリフに提案をした。確かにスイッチは、難しいが成功すればかなりの効果を得られる。
「スイッチか…大丈夫か?私についてこれるのかなアイズ」
ヒースクリフは、ニヤッと口を歪めた。
「ついてこれるか…? それは、逆だろうヒースクリフ」
アイズも笑いながらそう答える。
そして二人が、スイッチの構えをとったその時。あいつが現れた。〈The two large sword fencing a giant〉この五十層目のボスにして、今まで出会ったことがない最強の相手だった。
最初の前衛は、アイズ。
彼は、その右手に持っている本人以外に後2人しか知らない剣を見事に扱い、敵の攻撃をあしらい攻撃を敵に剣を叩きつける。しかし、敵も異常なほどの速さと威力で攻撃を放ってくるためヒースクリフとの交代のタイミングがとりにくい。
しかし、この敵の特徴として通常攻撃は、普通なら防御しかできないほどの速さであるが、いわゆる少々特殊なスキルを放とうとするときに一瞬の隙ができる。
その一瞬をアイズとヒースクリフが見逃すわけもなかった。
2人の息は、合っていた。それも異様なほどに…まるで昔からの知り合いでお互いのことを深く知り、何をするかが手に取るようにわかる。そう兄弟のようだったとこの二人の戦いを見ていたものは、後にそう語った。
それは、たったの数分間だけのことであった。後にも先にもこの一回だけ、ともにSAOで最強の名を手に入れし者。当然その名は、伊達ではなく。二人はまちがいなく最強であった。
そしてこの時の2人を見たプレイヤーは、皆が間違いなく思っていたことがある。
この2人には、絶対に敵わない。
誰もがそう思った。これからもこの2人さえいてくれれば…クリアも可能なのではないかと。
そして、また2人の伝説がまた新たに誕生することになった。
【両剣使い】と【神聖剣使い】
新たに発見されたユニークスキル【両剣】
そうこれが、アイズが使っていた武器。彼以外に知っている人物は2人。仮想空間にて両剣を造った人物とシステムとして両剣を創った人物。
造ったのは、アスナの友人である職人のプレイヤー。
創ったのは、この世界を創った人物でもあり、茅場康彦の兄であり、最高の科学者。
このスキルこそが、茅場晶彦から弟にプレゼントされた贈り物だった。この世界に一つ。たった一人だけのユニークスキル。【両剣】。
しかし、誰も知らなかったし、思ってもいなかった。この【両剣】スキルの使い手が突如謎の失踪を遂げることなど誰も予想もしていなかった。
二人の戦闘が終わり、その場にいたプレイヤー達はどうすればいいかわからずにいた。歓声を上げる者もいれば涙を流す者さえ現れた。
「すまない。誰か五十一層目の転移門をアクティベートしてきてくれ。それ以外の者は、ここから引き上げてくれ」
私が行ってきますと、【KoB】の副団長であるアスナが立候補した。それ以外は、最初は呆然としていたが続々と自分たちの戻るべき場所へと戻っていく。しかし、アイズとヒースクリフだけは、ただお互いを見つめ動かずいた。
そうして、5分後。
そのフロアから人の気配が消え、残っているのはアイズとヒースクリフのみとなった。
「なにを話せばいいんだろう…ヒースクリフ、いや兄さん」
「そうだな。とりあえずいつからだ?いつから私が、茅場晶彦だとわかっていた? 弟よ」
ヒースクリフは、そこまで言うと、何やらメニューを開き操作をしだした。そしてヒースクリフの後ろに突如高級そうな椅子が現れた。すまないな、座らせてもらうぞっとだけいい座った。まるでその姿は、絵の中の王様のような神様のような感じがした。
「いつからか…最初からだよ。最初の層攻略の時からわかっていた」
「そうか、だろうな…しかし、なぜ今頃になって私に話しかけた。わかっていたならば……なぜ今なんだ。もっと前でもよかったはずだ」
やはり、茅場晶彦はわかっていたようだ。最初からばれていたということに。
「それはね…頼みがあるんだよ兄さん。俺の願いを三つ叶えて欲しい」
「三つもか…良いだろう、ただし条件がある」
「そういうと思ったよ。で、条件って何?兄さん」
「今から私と勝負しようかアイズ。お前が勝ったら願いを叶える。しかし私が勝ったら九十九層目のボスとお前にはなってもらいたい。それが条件だ」
条件は、それだけだった。戦いに勝利する。それだけでいい。しかし、一番それが大変だということをアイズはよく知っていた。何しろ相手は、この世界の創造者なのだから。
「良いだろう。でもちゃんと GMの権限は、外してくれよ。じゃないとフェアじゃない」
「もちろんだとも、勇者よ」
ヒースクリフは、椅子から立ち上がり、【神聖剣】を構える
対するアイズも、【両剣】を構える
そして、どちらかとともなく勝負を開始した。
その試合は、間違いなく伝説と呼ばれてもいい試合だった。ギャラリーがいたならば相当な盛り上がりを見せていただろう。しかし本来ならば語り継がれるはずの試合を見ている者はだれもいなかった。
そして…アイズは、このSAOから消えた。決着がどうなったかは本人達と2人の兄妹のプレイヤーしかしらない。
少なくとも、このことがSAOの住民たちに与えた精神的ダメージは少なくはなかった。
第1章 完